巷では経歴詐称問題が騒がれています。
二、三年に一度はそう言ったニュースが世間を騒がし、しばらくすると、何ごともなかったかのように毎日は過ぎ去っていきます。二、三ヶ月経てば、そんなニュースがあったことすら忘れてしまいます。
学歴・経歴詐称だけではなく、食品の産地偽装問題もまた同じ。過去にも数えきれないくらいの偽装問題がありました。
「きっとバレないだろう」「誰も分かりやしない」
弱く甘い誘惑がちょっとしたウソを許し、許しを繰り返すうちに膨張し大きくなってしまうものなのかもしれません。
▼良くも悪くも言ったもん勝ち
木材業界は産地認証が曖昧な産業です。
全国に存在するスギやヒノキの名産地。秋田スギ、飫肥スギ、日田スギ、山武スギ、美作ヒノキ、吉野スギ、東濃ヒノキ、天竜ヒノキ、尾鷲ヒノキ…産地の冠を被ったブランド材の名前を挙げればキリがありません。
ですが、それらのブランド材に明確な基準があるわけではないのです。
アソコからココまで生えているのが◯◯ヒノキですよー、なんて生育する区域で分けられているわけではないのです。
良くも悪くも「言ったもん勝ち」のような曖昧さを帯びています。
◯◯県産材を使用した住宅を建てれば補助金が出ますよ、といったキャンペーンもたくさんあります。すこし前には木材利用ポイント制度も木材業界や住宅業界を賑わせました。
ですが、実際のところは製材業者をはじめとした木材業者がフォーマットに必要事項を記入し印を押して終わり、なんてことばかり。そのフローリング一枚が、どの山から伐り出された丸太で、どのように管理・製造されたかなんて求められてはいません。知るよしもありません。
木材業者が「これは◯◯県産材だ」と言えば、本当にそのとおりになってしまうのです。
「昔は尾鷲ヒノキって言ったらそりゃあもう有名で、九州でとれたヒノキを船でわざわざ尾鷲まで運んで、それをさらに東京まで運んで尾鷲ヒノキと言って売っとった」だなんて、冗談とも本気ともつかないことをとある製材工場のおっちゃんが言うてました。今も昔も大して変わらず、そんな世界なのかもしれません。
▼どこまで情報を追うのか、追えるのか
ブランド産地を名乗る製材工場がいつも産地の原木を使っているとは限りません。
原木不足のため、他県から原木を買い集めることもあるでしょう。そして、隣県の丸太を少しだけ(もし一本でも)混ぜた場合、それがブランド材と言えるのかと問われれば、非常に曖昧な領域になってしまいます。
あくまで「産地」にしか過ぎないのですから、県が違うからアウトというわけにもいきませんので。
また、◯◯県産として認識し仕入れた丸太の中にも、隣県の丸太が入っている可能性だってゼロではありません。
社内では丸太の産地を分けて管理していたとしても、仕入れている丸太自体がどの山でいつ取れたかまでは情報を追うことができません。自社の領域外になってしまい、取引先との信頼関係に委ねるしかなくなってしまうのです。
▼FSC認証材は果たして高く売れるのか
ぼくたちが暮らす西粟倉村の山々は、FSC認証というものを2006年に取得しています。
FSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)は、木材を生産する世界の森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際機関。
その認証は、森林の環境保全に配慮し、地域社会の利益にかない、経済的にも継続可能な形で生産された木材に与えられます。
このFSCのマークが入った製品を買うことで、消費者は世界の森林保全を間接的に応援できる仕組みです。
あわせて、ぼくたち材木屋もFSC CoC認証というものを取得しています。
森林から最終的なユーザーに届くまでに、製品は多くの加工製造、流通の段階をたどります。
FSC CoC認証はサプライチェーン全体を通じ製品が通る経路を全て辿って、FSC認証原料がきちんと識別され、他の非認証製品と分別されているかを確認するものです。
最終消費者の手前にある伐採業、製材業、製造業、流通業、印刷業や、小売業*など、林産物の所有権を有する企業を含むサプライチェーン内の企業は全て、FSC認証を取得しないと製品をFSC認証品としてラベリングや宣伝を行えません。
つまり、持続可能に育生・管理された西粟倉の木を使って、生産管理をきちんとしながらモノを製造・販売していますよ、ということが認められているのです。
けれど、FSC認証材だからといって高く売れるというわけではありません。
もちろん、今後の林業・木材業を考えれば、FSC認証材が高く売れるような仕組みや市場が醸成されないといけないのですが、現状はそうではありません。
お客さまから認証材を指定される案件の依頼があったときに、逃さず対応できるというのがFSC認証を取得していることのメリットなのだと思います。
認証材だから高く売れる云々の話ではなくて、FSC製品を使いたいという人、それを探している人に応えられることが大きいのです。
でも、その期待(需要)も、応えられる企業(供給)も、国内においてはまだまだ少ない印象を受けます。
▼産地ブランドにこだわるよりも信頼をつくる
木材は「重くて・安くて・かさ張る」という物流にまったく適していない商材にもかかわらず、大きな市場のある都心から離れた地域にほとんどの産地は存在します。
産地にこだわればスケールが大きく出せないし、スケールを狙えば産地にこだわることが足かせになってしまうのです。
大切なのは、産地としてのブランドではなく、企業としての信頼がブランドになるモノづくりなのだと思います。
◯◯産だから、ではなく、◯◯社さんの製品だから買いたいと思ってもらえるモノづくり。
先日、とある木材市場を訪れた際にセリ子さん(セリ売りの担当者)に話を伺いました。
「やっぱり売れるのは丁寧にモノづくりしてるメーカーさんのものだよね」
プロは使ってみれば絶対に分かるから、と付け加えたセリ子さん。あぁ、なるほど。
ひょっとするとブランドとは自ら名乗るものではないのかもしれません。
それを支持するひと、共感するひとの声が集まることでブランドが価値を帯びていくのだと感じます。信頼こそが価値だ。
ハーレー・ダビッドソンのユーザーがめったに他のブランドに乗り換えないことや、MacユーザーがWindowsには乗り換えずにMacのパソコンを使い続けることも同じですよね。
果たしてブランドが約束するものとは何か。
フィリップ・コトラーさんは「ブランドを広告するのではなく、体現せよ」って言うてました。
山側がホラッチョ川上だなんて言われないように、しっかり体現せねば、ですね。