規格よりも企画。ホームセンター以上、工務店未満の材木屋さんの必要性

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世界は規格に溢れている。規格を中心に世界が回っている。
と言ってもけっして大げさではないのかもしれません。

スーパーマーケットに足を運べば、一様の棚に一様に並んだキャベツ、だいこん、トマト、玉ねぎ……寸足らずのものもなければ、はみ出して大きいものもありません。
大きくて色味が良いものを、と手にとって選んでみるも、実際はほとんど大差がない(それでも目を凝らして選ぶのだけれど)。

パックに仲良く4匹が並んだアジも、きっちりと12個が納まったLサイズのたまごも、そのパックのサイズに合わせて育ったのではないかと思えるほどに画一的です。

でも、野菜も魚も、どれもが同じように育つものでありません。ナマモノだもの。本来、規格なんてものはけっしてない。我が家の小さな畑の野菜くんたちも大小さまざま十人十色、好き勝手に育っています。

それは木も同じです。同じような(サイズや目の詰まり、節の多さ等の)木はあれど、まったくと同じ木は存在しません。

木材業は、世に二つと同じものはない木を加工し、一定の規格と品質を満たす工業製品に仕上げる産業です。そして、その工業製品の規格にはさまざまなものがあります。

日本農林規格(いわゆるJAS規格)の中には、含水率は15%未満だったり、寸法精度は±1.0mmだったり、割れの長さの合計は材長の10%以下だったりと定量的に判断できるものもあれば、欠け・きず・穴・入り皮およびヤニツボは「極めて軽微」であること、だなんて極めて定性的なものもあります。

元々はナマモノなので、やっぱり反れたり曲がったり割れたりということは避けられません。製造時には真っ直ぐだったものが納品先に届いた時には曲がっている、なんてこともよくあります。
また、「極めて軽微」の判断は人によって違います。それはメーカーとお客さんとの間でも差異があるし、同じ会社のスタッフ同士でも(限りなく同じように努めるものの)差異は発生してしまいます。
だからこそ、木材業は非常にクレームが多い業界でもあります。

規格の中にも定量的なものと定性的なものがあって、それは中間流通をまたぐほど曖昧なものになってしまいます。

「ウチの会社じゃこれくらいの大きさの節だったら上小節だよ」「いやいや!これは小節でしょう」なんて等級品質の差異が発生することは日常茶飯事。それは構造材と内装材といった使用用途でも異なるため、いっそう認識のズレを大きくしています。ノークレーム・ノーリターンというわけにはいきません。
その結果、材木屋が「信頼のできる材木屋としか取引きせなあかんなぁ」と仕入先についてボヤくことになってしまう。そう、信頼がなによりも担保なのだ。

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日本の木材流通構造は拡大造林が本格化した1950年代から、数多くの中間流通業者が連続的に介在した形態になっています。

発生する中間マージンの中には、上に述べた「どこまでが上小節?」問題のような等級品質のリスクも考慮され、各企業がそれぞれの領域で品質を保証する必要があります。

そういった経緯もあり、エンドユーザーに木材(や木材を使った空間)が届くまでに多数の中間流通が介しているため、1950年当時と比べて木材価格が急落しているにも関わらず、中間流通の諸経費が非常にかかる高コスト構造の状態が続いています。

しかし、果たしてエンドユーザーが本当に欲しいと思った商品が、適正な価格と品質で供給されているかというと、そうではない気がしています。マスの流通構造の中で形骸化された木材が流通しているという現状が少なからずあるでしょう。
あわせて「木を選ぶ・買う」という行為が非常に限られた経路で、なおかつハードルの高いものになっています。

エンドユーザーにとっては等級品質が上小節なのか小節なのかはさして重要ではありません。そもそも上小節と小節の違いなんて知る必要もない。それはあくまで業界の共通言語でしかないのだから。

週末DIYで木製の棚をつくろうと思った時に、木材を調達できる場所は基本的にホームセンターくらいしかありません。インターネットで買うにはちょっとした勇気が必要です。実物を確認することもできないし、2メートルも長さがある板材なんてなかなかイメージがわきません。
加えて、その棚をつくろうと思った時に、どういった樹種の木材を、どういった寸法で、どれくらいの数量が必要だなんて検討もつきません。DIY雑誌を参考にしても、肝心の道具がなかったり。

木のある暮らしを広く提案しようと思った時に、必要なのはJAS規格や等級品質の保証よりも、木のある暮らしの提案です。そして、「つくってみたいな」「わたしでもやれるじゃん」と思ってもらえるような企画。

木材を使った商品を売るのではなくて、木材を使った空間をつくるプロセスを提供することが大切なんだと感じています。

ハウスメーカーに何千万円も払って夢のマイホームを購入するよりも、自分の手でつくった小さな木製棚の方が、「木(モク)」に対する愛着を抱いてもらえるのかもしれません。誰もが家を買えるわけではないし、もはや誰もがマイホームを望んでいるわけでもありません。

ウチの会社ではエンドユーザー向けの販売商品の等級品質は「節あり」「節なし」の二択に絞り込みました。上小節や小節という分かりにくい等級品質はきっとエンドユーザーにとって必ずしも必要ではないから。

木のある暮らしを広く提案するには、DIYやリノベーションがもっともっと誰でも簡単にチャレンジできるプラットフォームが必要だと感じています。
それは「週末は何をつくろう?」とついつい覗いてしまうクックパッドのようなレシピアプリでもよいし、つくりたいもののイメージが浮かぶCAD搭載のWEBサイト、DIYマイスターのいるリアル店舗だっていいかもしれません。

「木っていいよね」と多くのひとに思ってもらうには、規格よりも企画が必要です。それをホームセンター以上、工務店未満の領域で広く多くの人に提供していくことです。
そうでないと、DIYやセルフリノベーションのハードルはなかなか下がりはしないし、木材も使ってもらえないでしょう。

ホームセンター以上に親切な接客サービス、豊富な商品ラインナップ、図面の拾い出し機能。工務店のリフォームのようにお金を払って丸投げして他人に施工してもらうギリギリのラインまで自分自身でチャレンジできる環境づくりをしていければ、もっともっと面白くなるんじゃないかと感じています。

日々の生活に忙殺されてしまい、すっかり週末DIYが滞ってしまっている我が家。ようやく重い腰をあげて、念願の表札をつくって満足した週末にそんなことを考えたのでした。

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