日本林業再生のためにぼくがヒノキを食べて妄想した日本木食計画

gorira

バカバカしいタイトルだけれど大真面目に考えている。

いつか上司と「本当に森を循環させようと思ったら木を食べるくらいの消費方法を考えないといけないかもね」と冗談交じりに話していた。実は的を得ているのではないだろうかと思い、記事にすることにした。

 

いつかの深夜2時過ぎ、PCに向かい企画書をカチカチと作り続けていた。アタマもだいぶお休みモードになってきた時分に、ふと冒頭の上司とのやり取りを思い出し、「そうだ木、食おう」と思い立ったのだ。それはまるで、JR東海のキャッチフレーズ「そうだ京都、行こう」ほどあっさりとした思考回路だった。

おそるおそる自宅にあった30年生の尾鷲ヒノキの小さな丸太を手に取り、引き出しからナイフを取り出す。ヒノキを薄く削り、そっと口に入れてみる…噛む…噛む…(香りは良い)……また噛む……唾液があふれ……「うぇ。硬ぇし、味ねえ…」。無理だった。

やはり、人は木を食べることはできないのだろうか。いや、そんなことはない。シナモンやタラの芽は植物学上では樹木だし、インドネシアではバナナの幹をカレーに入れるらしいじゃないか。

 

いつか日本の将来に「やっぱり尾鷲ヒノキの赤身は美味いなあ」とか「吉野スギの柾目は味わいが深いですね」なんて会話があってもよいのではないかと真剣に考えている。町のスーパーでは産地ごとにスギやヒノキが並ぶ。煮るなり焼くなりした木が家庭の食卓を彩る。産地に足を運んで丸太の1本買いをするレストランシェフも現れたりして。そして、木を食べることが木材利用の超巨大なマーケットに発展していたら面白いじゃないか。

ということで、ヒノキやスギといった国産材の木材利用と新たな市場について考えてみた。

 

いいね!はたくさん溢れている

FacebookやTwitterなどのSNS、greenz.jpやソトコトといったオン・オフ問わずソーシャル系マガジンが近年普及した。それらでは森や林業に関わる取り組みも紹介され、日常的に情報が入ってくる。林業ニュースでは、全国の新聞社のWEB版などを通して林業に関するニュースが多数紹介されている。これらのメディアは僕も毎日当たり前のように利用させていただいているし(感謝)、林業・木材業に関する情報を収集する上で無くてはならないものになっている。こうしてブログを書いている時にも木工体験や国産間伐材を使った雑貨の発売、シンポジウム、ワークショップに関する情報などが続々と入ってくる。

一方でメディアで紹介されている数々の事例や取り組みが、林業や木材業、広く森林にとって本当に効果や成果のあるものだろうかと疑問に感じる瞬間もある。もちろん、それらのメディアの目的がアイデアや事例を紹介することであって、効果や成果を求めるものではないのは承知の上だが。

上記のようなメディアの普及によってFacebookで「いいね」をもらえたり、Twitterでシェアされるような共感を生む事例や取り組みが増えるだけでは、もしかしたらこの先、林業界は変わらない、変われないのではないかとも感じるのだ。林業は圧倒的に時間のかかる産業であるだけに効果をすぐに望むことはできない。でも、だからこそ、林業界にとって本当の意味での効果とは何なのだろうかと考える必要がある。

林業従事者の現状

僕はたかだか大学で少し森林についてかじっているだけで専門知識も無いし、林業の現場で働いたこともない。ましてや社会に出たこともないような学生が林業・木材業の課題や解決策について語るのは偉そうだし、おこがましいことなのかもしれない。だが、誤解を恐れず自分の感じていることを言葉にしたい。

 

国産材の価格低迷や木材自給率の低下、林業従事者の減少・高齢化、など林業や木材業に関わる課題は数多く存在している。多くの課題がある中で、なによりも目指さなければいけないのは林業・木材業が産業として成立し、利益が出る(=儲かる)ことなのだと強く思う。

厚生労働省が調査していた林業労働者職種別賃金調査(平成16年をもって廃止)の報告書によるといわゆるフォレスターと言われるチェーンソー伐木作業者や機械伐木造材作業者の全国の平均賃金(日給)は11,910円だ。ひと月が20営業日だとしても、およそ24万円/月。雪の日や雨の強い日は作業できないし、仕事がない日だってある。道具は自前で購入し、維持・管理するフォレスターがほとんどだ。24万円を越える月なんてほとんどないだろう。

 

以前、話を伺ったフォレスターの方は、ひどい月は手取りで8万円に満たなかったという。「こんなんじゃ食っていけないし、誰もやらないのは当たり前だよ」と話してくださった。月に8万円…僕のバイト代よりも少ない。死亡率が最も高い産業と言われており、1,000人に1人は死ぬ(怪我はその何十倍もある)と言われている林業界の給料の低さに驚きを隠せない。

また、林業従事者数の減少も顕著だ。国勢調査によれば1955年→2005年の50年間で51.9万人いた林業従事者は4.7万人まで減少した。90%以上という驚異的な減少率だ。この50年で日本の森林率はほとんど変わっていない中で、作業の機械化・効率化が進んだといえどもここまで従事者が減少して森林を適切に管理できるはずがない。

 

だからこそ再び、林業・木材業が産業として成立し、働く人たちが「林業(木材業)でも食っていけるじゃん」と実感できる業界になる必要があるのではないか。木材加工業者や販売業者はもちろん、素材生産業者が当たり前に暮らすことができる給与がある業界だ。それを実現するためには、木材で利益をあげること以外に選択肢はない。

新たな市場をつくる

木材の主な使い道は合板、紙・チップ、建築用材の3つが主な用途だ。木材需要量全体の減少に合わせてそれらの需要も減少している。その他は3つに比べると圧倒的に小さい。

これらの用途がこれから大きく増加する可能性は小さいし、縮小する市場の中で限りあるパイを業者間で奪い合うような取り組みには先が見えている。製材屋同士が競い、潰し合うような木材用途はきっと50年後、100年後には産業として成立しなくなっているだろう。

だからこそ、新たなパイを創り出す必要がある。既存の主要な木材用途に匹敵、もしくはそれを凌ぐような新たな木材用途を生み出すことができれば木材需要全体が高まるはずだ。

 

間伐材・単純加工・材積たくさん

木材需要を高めるためには、育林間伐の過程で発生する若齢級の樹木を用いていかに利益をあげるかが重要だ。

間伐の過程で発生する(柱にできないような)細い丸太は林内には多く存在するが、素材としての需要がない。高度成長期では、間伐された細い丸太は工事現場の足場丸太としての需要が多かった。やがて丸太の足場が鋼管にとって代わられるようになると需要が一気に減って売れなくなった。今では市場に搬出・運搬するまでのコストが木材の価格を上回って赤字となってしまうため、その多くが林内にそのまま伐り捨てられ、せいぜい杭として加工される程度でしか利用されていない。だからこそ、若齢級の間伐材で利益をあげる方法を考える必要がある。

 

重要な点は以下の4つ。

  1. 若齢級の間伐材を利用する
  2. シンプルな加工のもの
  3. 高く売れる
  4. 大量の材積が出る

 

若齢級の樹木は高齢級のものより乾燥後の曲がりや反れ、割れが生じやすい。そのため、加工にそこまでコストをかけずにシンプルな加工をすることが望ましい。森が循環するために若齢級の樹木が大量に素材として利用され、かつ高く売れる必要がある。そのための方法を考えたい。

日本国民が毎日テニスボール2球分を消費する量

日本の国産材供給量は1967年の5,274万㎥のピークに年々減少を続け、ここ10年で多少の上昇傾向があるものの、2010年には1,824万㎥である(森林・林業白書 H24年版より)。木材自給率は26.0%(2010年時)。現在の国産材供給量に匹敵する程度の新たな木材利用法を見つけることができれば、供給量が2倍になるとまではいかなくても、かなりインパクトのある材積量を出すことができるかもしれない。では、この漠然とした1,824万㎥という数字はどの程度のものなのだろう。実感が沸くような計算をしてみた。

それは、1億2,000万人の日本国民全員が365日毎日、テニスボール2球分の木材を消費すること、とほぼ同値であるのだ。

ざっくりと計算式は以下。

①…テニスボール2球分の体積:320c㎥(=0.00032㎥)

②…日本の人口:1億2,780万人 via Google 2011

<式> ①(㎥)×②(人)×365(日)≒1492万㎥

日本国民全員が毎日テニスボール2球分程度の木材消費をできる商品や仕組みをつくることができれば、現在の国産材供給量と同等の需要を生み出せるというわけだ。

何千万㎥という大量の木材消費を考えた時に、木をどう利用するべきなのか。家具や雑貨では高く売れるかもしれないが材積は出ないだろう。新築住宅1件あたりの木材使用料を増やすのは建築業界が懸命に取り組んでいる。木質バイオマスのエネルギーとして木を燃やす?はたまた、世の中にある非木材のものを木材で代用する。…そんなことを悶々と考えているうちに、「木材が安定的、かつ大量に消費され続け、利益が出て、森林の循環を促す」ためには木を食べて消費するくらいのことを本当にしなければいけないのではないか、という結論に至った。

 

どう食べる?

はたしてヒノキやスギは食べることができるのか?僕はだいぶ近いところまで世の中の流れが来ているのではないかと感じている。

リラックス効果を狙ったヒノキの葉のアロマオイル、ボディクリーム、入浴剤に消臭スプレー。近頃では、美容目的でパウダー状にしたヒノキの酵素風呂なんてものもある。ヒノキから採れる油には殺菌作用や消毒作用があり、殺菌・消毒剤としての利用開発も行われているようだ。なんでも木曾の木こりの言い伝えらしいが、ヒノキは二日酔いの特効薬にもなるそう。ヒノキのヤニをなめると、いっぺんに二日酔いが治るとか。本当だろうか?

いよいよ近い将来、食材としてヒノキやスギを食べる時代がきても不思議ではないと思う。美容や健康への効果をうたったものかもしれないし、純粋に味が良い食材として広がるかもしれない。特にヒノキは日本と台湾にしか生えていないし、海外への輸出もできるだろう。食材としてのヒノキやスギが定着すれば、先に述べた「毎日テニスボール2球分の消費」も可能になるかもしれない。

煮て芯まで味が染みた鍋底ヒノキもよし、木目を生かしたスギとヒノキの盛り合わせもよし。まずはヒノキをパウダー状にして素材のままに白いご飯にかけてみる、真剣に。

木を1本間伐するのにも補助金がかかって林業の純粋なコストが見えにくくなってしまっている今、添加物(=補助金)なしの無添加な林業の持続を考える必要があるし、木だって無添加の方が素材の味が活きて美味しいはずだ。長々と書いてしまったが妄想はここで終わり。