ニラが餃子になる時、餃子がジャガイモになる日

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毎週末土曜日の午前は、隣町の鳥取・智頭町に買い物へと出かけるのが我が家のお決まりだ。

いつも足を運ぶ小さなスーパーマーケットは、新鮮な魚が特価で販売されていることが多くて、今日はどんな魚が売られているのか、ちょっとした週末の楽しみだったりする。

鮮魚コーナーに辿り着く前に、まずは野菜コーナーを通る。そこには一部、地元の生産者さんがつくった野菜の販売コーナーがあり、その日の朝に届けられた新鮮な野菜が並ぶ。

「ナスもニンジンも先週もらったから要らんよな」
「うん」

「ニラ、買っていい?100円だし」
「いいよ」

「でも、ニラは日持ちしんで痛むからなー」

「ニラは濡らした新聞紙にくるんで冷蔵庫に入れてやるといいよ」
「?」

同居人と会話をしていると、見知らぬおばあちゃんがそっと(絶妙なタイミングで)会話に入ってきた。抱えたビニール袋からニラを取り出し並べながら。深い緑は、小さなパックにこれでもか言わんばかりにぎゅっと詰められている。

もしかして生産者さんですか?ん、そうだよ。ほんとだ、袋に名前が書いてある。小さい農家じゃけどな。じゃあ、せっかくだしおかあさんのつくったニラ買わせてもらいますわ。あらありがとうね。安いしいっぱい入ってるしお得ですね。今朝採ってきたばかりだし新鮮だよ。どうやって料理したら美味しいですか?お汁に入れてもいいし卵と炒めてもいいね。ありがとうございます、やってみます。こちらこそありがとうね。

顔に幸せがたくさん刻まれたちいさなおばあちゃんとこんなやりとりをした、確か。曖昧だけど、大体がこんな感じだっただろうし、どんな会話をしたかなんてたいして重要ではない、たぶん。

やっぱり生産者の顔が見える野菜の方が安心できるし美味しく食べられるよなぁ、と同居人と話しながら、せっかくだから今日はあのニラを使って餃子でもつくろうや、なんて話になった。
どうせ買うなら、生産者の顔や育て方が見える野菜を口に入れたいし、せっかく食べるなら美味しく食べたいもの。
鮮魚コーナーには、楽しみにしていた本日の新鮮な魚くんは見当たらず、丑の日に押されて養殖モノのうなぎちゃんがズラリと並んでいた。

育ち盛りの男三人共同生活、夕方から三パックの豚挽き肉を練り、半玉のキャベツを切り、おばあちゃんのニラを刻む。ニンニクと生姜をすりおろす。我が家の小さな畑に好き放題に生えている大葉もたっぷりと餡に練りこんだ。

ノリと勢いでつくった100個弱の餃子は、当たり前に美味しくて、土鍋で炊いた白飯とともに大量に食べられたが、さすがに余った。というより、やっぱり余った。

いつもお世話になっとるから大家さんにお裾分けしようや、と包んだ餃子をお皿に入れてお隣の大家さんのもとへ。あらまーありがとうちょっと待ってねー。あれよあれよと餃子は豚の角煮へと変貌を遂げた。豚肉は近所のおかあちゃん(94歳)からお裾分けしてもらったものだそうだ。

すっかり餃子と豚の角煮の余韻に浸っていると、大家さんからの電話が鳴った。「近所でジャガイモをくれる人がおるから行くぞ」と。
大家さんとともに、そのご近所さんの家まで歩く。図々しくもビニール袋片手に。

欲しいだけ持ってっていいよ、というお言葉に甘えて袋いっぱいにメークインと男爵を詰め込む。玉ねぎも要るか?ありがとうございます。ピーマンも持ってけ。ありがとうございます。あ、畑のナスももらっていいですか?持ってけ持ってけ。
結果、持っていった袋の数よりもたくさんの袋を抱えることになった。これからも倉庫から勝手に持って行ってくれればええでね、とすてきな信頼のお裾分けコミュニティ。

帰り道には、また別のご近所さんと遭遇。そのおっちゃんも自分で畑仕事をしている。
もう少ししたら枝豆ができるから取りに来いや、と言っていただいた。おっちゃんは「コレに最高に合うでぇ」と右手に持った缶ビールをクイッと上げた。ニンマリと笑いながら。
遠くに見えるおっちゃんの畑に生える枝豆はこんもりと大きく育っていた。我が家の枝豆はまだまだ小さいままだ。

おばあちゃんから買ったニラの根元も、ご近所さんからもらったジャガイモの皮も、これからいただけるであろう枝豆も、美味しく食べ終えた残りは我が家の自家製コンポストに入る。

ちゃんと発酵しているのかいまだに分からないままのコンポストの堆肥は、いつか我が家の畑の肥やしになって、好き勝手に生えている大葉やまだまだ小さい枝豆の成長を促す(と信じたい)。育った野菜は自分たちの身体に入り、明日へのエネルギーとなる。

ありがたいことに今日も美味しい野菜を口にすることができている。お裾分けを美味しくいただけば、我が家の野菜もきっと、もっと美味しくなる。そして、自分も元気になる。

ギブ&テイクとはいかずテイク&テイクの毎日だけれど、本当に有り難いからこそ何かで返したいとおもう。返せるものなんてたかが知れているけれども。
いただいたジャガイモは翌日、ポテトサラダにしてさっそく大家さんに持っていった。マスタードが隠し味だ。口に合えば嬉しい。