木材に必要なのは規格よりも企画 お客さんがJAS規格でハネられる端材を喜んで持って帰るのはなぜ?

JAS認定工場における選別・格付・品質管理に係る製材の資格者養成研修会、といふものに参加してきました。

平日2日間&9時〜17時までのギッシリ詰まった缶詰講習。

おかげでポケットで鳴り続ける電話に目をつむって月末の請求書発行やら溜まった見積もりの作成やら事務作業がずいぶんと進みました。って違うか。

見たことあるけど実はよく知らないJASとは?

JAS制度は、農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)に基いて、

  1. 品質改善
  2. 生産の合理化
  3. 取引の単純公正化および
  4. 使用または商品の合理化

を図ります。

農林水産省が制定した日本農林規格(JAS規格)による検査に合格した製品にJASマークをつけることを認めるJAS規格制度と、一般消費者の選択に資するために内閣総理大臣が制定した品質表示基準に従った表示を全ての製造業者または販売業者等に義務付ける品質表示基準制度の2つからなります。

この2つの制度によって、農林物資の生産および流通の円滑化、消費者の需要に即した農業生産等の振興並びに消費者の利益の保護に寄与することを目的としております。

と講習で手に入れた手引きの冒頭1ページ目をまるまる写してみてもよく分かりません。

ちなみに、農林水産省の「子どもの食育」というページには、

食品にはいろいろなマークがついています。その中でもJASマークは、国が認めたマークで、このマークがついている食品は基準以上の品質があるものです。買い物のときに気をつけて見てみましょう。

と書いてあったのでした。

お国が認めた一定基準以上の品質がある食品にはこのマークが付いてますよ、って分かるようで分かりません、ヘンなの。

JAS規格は細かいけれど曖昧だし、品質がグレーな木材業界

加工食品だけではなく、木材にもありますよ、JAS規格。

しかし、その規格の細かさにウンザリしてしまいます。

こんなの覚えられる人いません。

例えば、造作材の節(枝の跡)の等級を表す「上小節」「長径が10mm以下であって、かつ、材長が2m未満のものにあっては3個以内」なんてまだマシです。

構造材・甲種Ⅱの腐朽は、「程度の軽い腐れの面積が腐れの存する材面の面積の10%以下であること」って言われてもイメージがわきません。

「欠けやキズ → 極めて軽微であること」ってどれくらいだよ!

曖昧さを避けるための規格が曖昧のままだったりするから不思議なもんです。

木材業界は限りなくグレーな業界です。

乾燥材を頼んだのにズブズブに濡れた木材が届いたり、無節のものを頼んだのにバッチリ節が入っていたり。

「粗材ン時は無地じゃったけど、削ったら節が出たんじゃ」

「岡山の上小節って言ったらこのくらいの節も入るで?」

ってそんなの知らねえよ!

頼んだ品質のモノを持ってきてよ!

今すぐ代替品持ってきてください!

って言っても製造リードタイムが非常に長い産業でもあるので「今からだと二週間かかるなぁ(ドヤッ」みたいな。

そんなに工務店さんは待ってくれないよ!

ひとつとして同じものはない自然の木を限りなく工業品質に近づけ、消費者の需要を満たすための基準がJAS規格です。

でも、その品質って最後の最後のエンドユーザーは求めているのだろうか?と感じてしまいます。

説明責任のための過剰品質で自分たちの首を締めちゃいませんか?って。

節があった方が木っぽくて良い、と端材を持って帰るお客さん達

仕事柄、お客さんに工場をご案内することが多々あります。

西粟倉の山々や丸太が集められた土場、そして会社の工場と、木が生えているところから木製品になるまでの一連の流れをお客さんに見てもらった最後に、工場の製造過程で発生した端材をプレゼントすることがあります。

「ここにある木材なら好きなもの持って帰ってもらっても大丈夫ですよ」と。

みんな目を輝かせて喜んでくれます。

「わー!いい香りがする」

「これで棚つくってみます」

持って帰れないほどの木材をカバンや車に詰め込む様子を見るのが密かな楽しみだったり。

そして、たいていのお客さんは、材木屋からすれば「価値の低い」木材を持って帰ります

節が極端に大きかったり、変な形の穴が空いていたり、色味が濃かったりするもの。

「あっちの方が価値がありますよ」と伝えてもお客さんは嬉しそうに「え、こっちの方が木っぽくて可愛いから好きです」と言うのです。

JAS規格じゃ一発でハネられてしまうような品質。

でも、これをお客さんが喜んでいることこそが重要な事実です。

もう「木っぽい」木質風建材にはウンザリしてますよね?

木目調プリントの合板フローリング。

突板できれいに化粧された棚。

本当の木ではないけれど、本当の木に「見える」木質風建材が世の中にありふれています。

今や「木っぽいもの」にはすっかり目が慣れてしまっています。

だからこそ、本当の木が新鮮なのかもしれません。

そして、節だったり色味の違いだったり、自然ゆえのバラつきが自然らしさやあたたかみを感じさせてくれるのかもしれません。

うちの会社では、エンドユーザー向けに等級品質をなくした商品があります。

ユカハリ・タイルという商品に製品品質はあれど等級品質はありません。

無節だとか上小節だとか一等だとか分けることをやめました

あわせてmmの表記もcmに替えました。

建築業界では当たり前のmmモジュールも結局何cm?と頭で計算してしまいますよね。

分かりにくい等級品質もモジュールも混乱を招くだけです。

本当にお客さんが求めている商品を、分かりやすい形と言語で、手に入れやすい価格と品質で提供できなければ生き残れやしません。

だから木材業界は縮小するし、木材業者はどんどん潰れていきます。

一方で、木のことを嫌いだと言う人にぼくは出会ったことがありません。

みんな分かってる。

性善説的に自然も木も好きです。

実際に自分の生活に取り入れようとすると思いのほかハードルが高かったりするものだけれど、そのハードルを下げることさえできれば、もっと木材マーケットは広がるし面白くなるはずです。

「この節は最高にかっこいいですね」と節だらけの木材が高価格になることだってあり得ます。

事実、一枚板のテーブルにはそういった市場が確かに存在します。

お客さんの要望を満たすためにつくった規格で自分たちの首が絞められていては本末転倒、必要なのは規格よりも、お客さんに喜んでもらうための企画なんだと思ったのでした。

改めてぼくたち材木屋の立ち位置と振る舞いを考え直す二日間になりました。

ポップでキャッチーな材木屋でいよう。