いつもの日曜日のメロディで

photo via memories of time

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ぼくはすっかり疲労困憊していた。

丸一日、休日を返上して業務に明け暮れた。一緒にプロジェクトに取り組んでいる同僚がくだらないミスをしたせいで、濡れ衣を着せられることになったのだ。日曜の早朝からその対応に追われ、ようやく目処が立った時にはとっくに日は沈んでいた。もちろん週末に予定していた家族サービスはキャンセルだ。

 

ぼくには何処にも居場所がない。

会社では真面目に、一生懸命に、働いている。だが、上司はぼくを正当に評価してくれないし、当分先まで昇給も昇格もなさそうだ。会社の居心地はこの上なく悪い。最悪だ。そもそも会社がこのまま存続するかどうかだって分からない。低能な上司にやる気のない同僚、事務の女は田舎丸出しのブスばっかり。そんな会社に明るい未来なんて絶対にない。

家だってそう、最低だ。妻の実家に同居させてもらっていることもあって肩身が狭くてたまらない。禿頭の義父はガミガミうるさいし、毎晩のように晩酌に付き合わされる。甥っ子のクソガキは悪戯ばかりして迷惑をかけるし、学校での成績はいつも赤点だ。姪っ子は最近ヘンに色気づいた。パンツが見えそうなくらい短い丈のスカートを履くクソビッチになっちまったんだ。家族のことを考えるだけで虫酸が走る。

 

今日が終わっても、また明日から無機質な毎日が始まる。

早朝の満員電車に揺られ、馬鹿な上司や同僚とくだらない仕事をして、家に帰れば家族に気を使いながら肩身の狭い思いをするんだ。週末は家族サービスをたっぷりして嫌々ながらも素晴らしいパパを演じなければいけない。心の休まる暇なんて全くないんだ。こんな生活がずっと続くのかと想像するだけで気が滅入る。憂鬱になる。ぼくは誰のために働いているんだ?ぼくは一体何のために生きているんだ…?

 

 

「…ただいま」

「あら、おかえりなさい」

いつものように妻が出迎えてくれた。ちょうど皆でご飯を食べ始めたところなのよ、と妻はにっこりと微笑んだ。妻だけがぼくのことを理解してくれている。肩の力が少しだけ、抜けた。

 

茶の間からは何十年と聴き慣れたメロディが聞こえてくる。もうこんな時間か。

< お魚くわえたドラ猫 追っかけて >

 

三歳になった息子が玄関口まで駆けてくる。あい変わらず不思議な足音だ。

「パパぁ〜、サザエさん症候群ってなんですかぁ?」

 

妻は一センチの何分の一かだけ、口角を上げてニヤリと笑った。