「ワタシはね、この家具を売る時、ネガティブなことばかり言うんですよ」
重厚感のあるアイアンフレーム、足場板の古材を生かした天板。それら二つの特性を生かしたダイニングテーブル&チェア。存在感はあるけれど主張し過ぎない雰囲気がかっこいい。
ふふ、と笑っては天板に手を触れ眺めながら、そのひとは続けます。
「しっかりと説明を聞いたうえで買ってくれたお客さんは、ネガティブな面も含めてこの家具に対する理解があるし、ずっと大事に使い続けてくれるんですよね」
先日、訪れたのはオーダーメイドのアイアン家具の製作・販売に取り組むお店。けして広くはない店内にはアイアンの重厚感と古材の風合いを活かしたユーズド感のあるテーブルやイスが並びます。
ふらっと覗くだけのつもりが夢中になって話を聞いていたらすっかり長居をしてしまったのだけれど、店主さんのお話を伺えたことは思いもよらぬ収穫だったのでした。
「古材じゃないと出せない雰囲気を大事にしたいんですよ。だから、きれいな木材でつくるとどうも違うんです」
「節だってあるし、キズや凹みやささくれもある。でも、それがとてもいいアジを出すんです」
色や節、傷、反れなど、一点一点に同じものはない足場板の古材を使い、オーダーメイドの家具製作・販売に取り組む上で、ご苦労はたくさんあるようです。最近ではスギの足場板の古材が手に入りにくくなってきたこともこれらの家具の大きな課題になっているとのこと。
けっして安い買いものではありません。
だからこそ、お客さんがオーダーメイドで注文して納品した後に「イメージと全然違う!」なんてことにならないように、出来る限り家具のネガティブな面に触れながら説明しているとのことでした。
大きな節だってありますよ、曲がったり割れている部分もありますよ、表面だってキズついていますよ、と延々に、そして、丁寧に。
「ネガティブなことばっかり言うもんだからさ、お客さんからしてみれば、売りたいのか売りたくないのか、どっちか分かんないだろうね(笑)」
まるで冗談のようにそうおっしゃる店主さんですが、驚くべきはネガティブキャンペーンをはじめてからクレームが一切なくなったとのこと。それどころか、口コミは広がり、売上も伸びてきた。
そして、本当に喜んでくれるひとや大切につかってくれるひとが増えてきたらしいのです。そりゃすごい!
「古材なんだから、足場板なんだから(品質や風合いなんて)こんなもんですよ」と言ってしまえばそれ以上でもそれ以下でもなくなってしまう。
けれど、その「こんなもん」が「どんなもん」なのかお客さんには分かりません。
だからこそ、ネガティブな面も含めて「どんなもん」なのか分かるまで丁寧に説明し続けることが大切なんですね。伝える、と、伝わる、は違うから。
「営業の効率なんて考えていたら、こんな商売やってらんないよね」
と苦笑いする店主さん。
「でも、欠点も含めてちゃんと愛して使ってほしいからね」
その真っ直ぐで頑固な姿勢にぐっときたのでした。