ビジュアル系、犬系男子、ソーシャルベンチャー…
新しい言葉が生まれる瞬間や、言葉が急速に認知され普及する過程ってとても興味的だなと思うのです。
これらの言葉(=分類)に該当する事象は以前からあったにも関わらず、言葉が生まれることで、その分類に該当する事象が急速に認知され、普及しはじめたりするものです。
ビジュアル系バンドという言葉が普及する以前からX JAPANはド派手な化粧と衣装で演奏していました。同じように、犬系男子という言葉が生まれる前から該当する性格や傾向をもった男子はいるわけですし、ソーシャルベンチャーと言われるような事業会社は昔にもあったはずです。
事象は以前から存在していたにもかかわらず、言葉が生まれることで容易に分類できるようになるわけです。
「あのバンドってビジュアル系だよね」
「◯◯くんって犬系男子っぽいね」
「御社はまさにソーシャルベンチャーですねえ」といった具合に。
▼具体的にしたはずが抽象的になる
けれど、事象が分類されることにより、具体的になったかと思いきや、その分類が認知され、一定数の流入が増え拡大してくると、今度はその分類が曖昧になり、抽象的になってしまいます。
「ソーシャル」という言葉は、その最たる例なのかもしれません。
ソーシャルネットワーク、ソーシャルビジネス、ソーシャルゲーム、ソーシャルベンチャー…ソーシャルを冠につけた言葉は数えきれないくらいにあります。
FacebookやTwitterが普及する以前は、こういった言葉はほとんど聞いたことがありませんでした。いまやソーシャル◯◯が増えすぎて、ソーシャルが何を意味するものなのか分かりづらくなってきています。
先日、大阪出張に出掛けた際に飲み屋街を歩いていると、「ソーシャルペーパー」なるフリーペーパーが並べられているのを見かけました。
ついにはペーパーもソーシャルなのか!と気になってのぞいてみると……なんてことはありません、中身はただのスナックや飲み屋の広告紙だったのです。なにがソーシャルペーパーやねん!とおもわず独りごちたのでした。
マーケティングのキーワードとして、それらの言葉が頻繁に使われるようになると、曖昧さを抱えたまま溢れてしまうものなのでしょうか。
▼抽象化の先に再分類がある
具体化にしたはずの分類の中に一定数の流入が増え拡大し、分類が曖昧になり抽象化してくると、もう一度、具体化するためにさらなる分類がはじまります。それは細分化だったり派生だったり。
音楽のジャンルのひとつであるロックミュージックもそう。
ロックンロール、ハードロック、パンクロック、オルタナティブロック、プログレッシブロック…もはや何がなんだか分かりません。細分化と派生を繰り返し続けた先は曖昧模糊。シンフォニック・ハードプログレメタルってなんじゃそりゃ。
例えば、ピンク・フロイドがどのジャンルに当てはまるかなんてうまく説明できないし、説明する必要もないと思うのです。音楽性だってその活動の中で変化しています。そもそも細分化し派生した分類(ジャンル)に明確な定義を求める必要なんてないのかもしれません。
ただ、分類が具体化→抽象化→具体化(細分化・派生)…という過程を繰り返していくこと自体がおもしろい。言葉が生まれて、具体と抽象を繰り返し続け、さらにさまざまな言葉が生まれていきます。
▼伝えると伝わる、の違い
そして、なぜビジュアル系やらソーシャルやらロックやらを事例として挙げながら、こんなことをつらつらと書いたかというと、果たしてそれらの言葉や分類は本当に機能しているのかと疑問に思ったからです。
相手が認識し分類できる(であろう推測した)キーワードを羅列しながら伝えても、相手のイメージと違ってしまったり、違和感を感じてしまうようでは意味がありません。
「伝える」と「伝わる」は違います。
伝える、の主語は自分
伝わる、の主語は相手
伝える、は一方向
伝わる、は双方向
こんなことは当たり前なのかもしれませんが、「伝える→伝わる」が自動的に成立するわけなんてないので、「伝わる」ように「伝える」ことが必要です。
一方で、よっぽど親しい中でもない限り、以心伝心なんて絶対に成立しないので、伝わるように伝え続けることも大事なのかもしれませんね。
▼とりあえず使ってませんか、その言葉
先日、SNSのタイムライン上にこんな記事タイトルを見かけました。
「オリジナルポン酢をDIY!」
わざわざDIYなんて言わなくてもレシピでいいじゃんヨ…と感じつつも、(その記事はDIYメディアのものだったので)DIYに特化したマーケティングゆえにこういった言葉選びをしてしまうんだろうな、と感じたのでした。
また、先日とある工務店でこんな話を伺いました。
「DIYやらリノベーションやらと言ってくるお客さんってメンドクサイんだよね」
どうやらDIYやリノベーションに関心のあるお客さまは、難しい&細かい注文が非常に多いとのことでした。けれど、その工務店のWEBではDIYやリノベーションをウリにした提案をしているのです。
そして、そういったキーワードに興味を持ち、訪れるお客さんがいる。でも、実際のところは、前向きには対応したくない、ということなんですね。だったら、そんな文言を使わなければいいのに。
住宅業界では自然素材をうたった家づくりをする工務店が増えてきて、今度はその細分化として無添加素材なんて言葉も出てきたりしています。ただの自然素材ではなくて、無添加なんですよって。もっともっと素材に配慮した家づくりですよって。
でも、差別化を狙った言葉選びをしたとしても、きちんと相手に伝わらなければ、余計に相手を混乱させてしまうだけです。
「DIYってどこからどこまでの意味なんだよ?」
「あなたはリノベーションの定義を説明できるんですか!」
…なんて、言葉の意味や定義を明らかにしたいわけでは決してありません。
冒頭の例えを反面教師にして、丁寧に言葉選びをしなくてはいけないなぁと強く思ったのです。安易に時流に乗っかって薄っぺらな言葉を用いても、浅はかな狙いはすぐに分かってしまうのだから。
言葉の定義が重要なのではなくて、相手にきちんと伝わっているかどうかがすべて。難解な言葉を羅列するんじゃなくて、簡単な言葉で分かりやすく説明することほど難しいなと思ったのでした。