銀の龍は森の幽霊

genseirin

この時期の若杉原生林は新緑が美しくて大好きだ。森の中はひっそりと静かだけれど、野鳥や虫の鳴き声、木々がざわつく音、川のせせらぎ…いろんな音が聴こえてくる。

 

休日の早朝に出掛けては、バズーカみたいなレンズを抱えたカメラおじさんとすれ違ったり、ぬかるんだ地面に足を滑らせたり、山を駆ける鹿の足音にビクッと驚いたりしながらトレイルの練習をしている。

平日も走らなきゃと頭では分かっているものの、仕事終わりに重い腰はなかなか上がらず(かと言って早起きして走る気持ちにもなれず)、休日の早朝に山を走っては有意義な時間を過ごしている。と自己満足に浸っているだけで、頻度は少なく距離も走れていないのが現状なわけで。

大自然の中でふと足を止めてみれば、聴こえてくるのは野鳥や虫の鳴き声、木々がざわつく音、川のせせらぎ……以上に自分の心拍音の方がよく聴こえたりするもんだから情けなくなる。どくどく。

 

今日は練習のためにというよりも、ある植物を見たくて若杉原生林に向かった。それはちょうど去年の今頃、同じように若杉原生林で見かけた、不思議な植物。

今年も見ておきたいなと思ったんだから、今こそ行かねばならぬ。はじめて見たのが去年の今頃だから、二回目に見るのもやっぱり今年の今頃がいいなと思ったのだ。

 

去年はどの辺りで見かけたっけなと曖昧な記憶をたどりながら、たまにしか現れない案内板を頼りにしながら、とにかく山を走る、走る。たまに止まる。ハァ。お目当てを探しながら走る。だから、枝が顔に当たる。ワ。

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探しまわること一時間弱……ようやく見つけた。

植物の名前は、ギンリョウソウ。漢字で書くと、銀竜草。

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ギンリョウソウ。別名「ユウレイタケ」。

暗い林内でひっそりと生える、白く光る不気味なヤツ。

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植物なのに色がない、白く透き通った不思議な植物。だから、神秘的。

腐植土の多いところに育つ腐生植物で、葉緑体や色素がないために白く透き通っているんだとか。なにより銀竜草というネーミングも頷ける、銀色の竜のような見た目が美しくもかわいい。ムーミンのニョロニョロみたい。ちなみに花言葉は「はにかみ、そっと見守る」。どうでもいいか。

去年はじめてギンリョウソウを見て非常に驚いたけれど、もう一度見てもやっぱり驚くフシギ植物。今年も見ることができて満足。

その季節季節で見たいと思える自然や風景が増えてきたのは、きっと歳をとったからじゃなくて、自然の繊細な移り変わりを感じられる場所に身を置いているからだ。

 

来週あたりにギンリョウソウの成長を確かめに行かなきゃな、と山を走る理由をつくろうとしている自分がいた。山を走る理由なんてなんだっていいのだ。ドクドクと胸を打っていた心拍はすっかり落ち着いて聞こえなくなり、シトシトと降る雨の音に気がついた。

脳内BGMが中島みゆき「銀の龍の背に乗って」なのが悲しいかな、古くさいし安直だ。さあ、行こうぜ。