「だから近頃の若いやつは駄目なんだよ。ゆとり世代は使えねえな」
「申し訳ありませんでした」
ぼくは低く頭を垂れたまま、もう一度だけ、本当に申し訳ありませんでした、と口にした。次は無いと思えよ、と上司は吐き捨て会議室をあとにした。
仕事の失敗は認める。だけど、それを最近の若者は駄目だと括りつけてしまうのはおかしな話だ。低能な上司たちは「俺らが若い頃はな…」といかに自分たちが若い頃に努力し成果を出してきたかを誇張して自慢する。くだらない。
その日の夜、ぼくは仕事の失敗と上司の顔を忘れるように酒を浴びていた。身体全体に染みわたるビールは頭の回転を次第に鈍くしていく。ひとり酒も捨てたものじゃない。
金曜日の夜だけあって、店内は賑やかだ。サラリーマンたちは溜まった仕事の疲れを酒で洗い流そうと次々と杯を空けていった。
カウンターの隣では、すっかり顔を赤くした二人の中年サラリーマンが仕事の愚痴を肴に酒を飲んでいた。
「ったく、最近の若いやつは本当に仕事ができなくて困るよ」
「挨拶すらちゃんと出来ないんだもんなぁ」
「まあ、俺らも昔はそうやって怒られてきたんだけどな」
ハハハハハ、と笑っては焼酎をぐっと飲み干した。
最近の若者は駄目だなんて言われているのはぼくらだけじゃないんだな。少しだけ安心した。
ぼくらをゆとり世代と名づけたどこかのお偉いさんを許すことはできないし、ぼくらだってなりたくてゆとり世代になったわけじゃないんだ。
文句も言えないくらいにもっと仕事が出来るようになって上司を見返してやろう。そう小さく決意した夜だった。
目覚めたのはすでに昼前の時刻だった。カーテンのすき間からは光が覗き込んでいた。すっかり二日酔いの重い頭を持ち上げ、水を二杯飲んだ。なにげなくテレビの電源を入れる。テレビの中では、パリっとスーツを着こなした女性キャスターがつらつらとニュースを読み上げた。
―昨日、紀元前✕✕✕✕年頃に建設されたとされているエジプト・◯◯◯◯遺跡からある文面が発掘されました。専門家によると「最近の若者は全くなっていない」という皮肉や愚痴を込めた文脈の象形文字が掘られているそうです。詳しい解読はまだされておりませんが、いつの時代も同じようなことが言われ続けているのですね―
やっぱりそんなものなんだな、と気持ちが楽になった反面、人間はどうして変わることができないのだろうと少しだけ憂鬱になった。きっと上司も若い頃はそうやって年配者たちにいびられてきたはずだ。だけど、いざ自分が年配者になればその恨みを晴らすように若者を目の敵にする。
腹も減ったし何か美味しいものでも食べに行こう、と簡単に仕度をすませ外へ出た。太陽はすっかり高くあがっていて真上からぼくを照らしつけていた。
たまたま通りかかった公園では、子どもたちがベンチに座り込んで携帯ゲームの画面を覗きこんでいた。
「最近の子どもはゲームばかりやってるなぁ」
そう呟いたあと、ぼくは自分が嫌になった。