伝統工芸品としても名高い、秋田・大館の曲げわっぱ。
2014年5月28日の「さきがけ on the web」の社説で曲げわっぱが記事に取り上げられていました。
記事によると、
原材料として長年使用されてきた天然秋田杉(天杉)が資源保護を目的に供給停止となり、今後は人工杉中心の製造を余儀なくされる。人工杉の特徴をしっかり分析し、課題を洗い出した上で対応を急がなくてはならない。
また、
天杉に比べると、一般に人工杉は硬くて弾力がなく、曲げわっぱの製造過程で折れやすいとされている。天杉と同程度の弾力を持つ人工杉は全体の7%にすぎないとの指摘もあり、曲げわっぱに適した人工杉を伐採段階から効率的に探し出せるかが大きな課題でもある。
とのことです。
木材を使用した伝統工芸品の素材供給は大きな課題となっているようです。
この記事を読んで、学生時代にお話を伺った尾鷲わっぱの職人さんの顔が頭に浮かびました。
三重県尾鷲市の尾鷲わっぱもまた、曲げわっぱと同じ課題に直面しているのです。
県の伝統工芸品に指定されている尾鷲わっぱですが、尾鷲わっぱを製造しているのは、今やぬし熊さん1件のみ。
ぬし熊の4代目となる世古効史さんがその技術と伝統をひとり守り続けています。
曲げわっぱと同じように、尾鷲わっぱもまた素材供給での大きな課題があると世古さんはおっしゃいました。
「柾目の良質な尾鷲ヒノキが手に入らない」
「側面を縫い合わせる時に使うサクラの皮が手に入らない」
「漆の値段が高騰している」
その原因にはさまざまな要因があるのでしょうが、伝統工芸品の市場の縮小や後継者の減少とともに、素材供給が滞ってしまっているようです。
曲げわっぱや尾鷲わっぱだけではなく、日本各地の伝統工芸品でも素材供給の課題は尽きることがありません。
「伝統工芸品づくりの材料・道具ネットワーク」によると、
これまでにみてきた伝統的工芸品産地における原材料や生産用具の調達状況を取りまとめると、全国210の伝統的工芸品産地のうち半数以上の産地で原材料に関する問題を抱え、生産用具では3割以上の産地が問題を抱えている。原材料では天然木や竹などの天然資源の枯渇、原材料の品質低下、原材料採取・育成人材の不足、調達コストの増加が問題となっている。また、生産用具では供給先の減少や用具製作人材の不足、調達コストの増加、品質の低下、代替用具の進出などが問題となっている。平成18年度調査における原材料の43.9%、生産用具の18.9%と比較すると、原材料、生産用具ともに問題を抱えている産地は増加しており、生産基盤に対する産地の危機感が強まる傾向にある。
伝統工芸品産地の多くは、需要の減少傾向にありますが、その素材供給先である事業者はそれ以上の縮小に翻弄されています。
その一方で、「伝統を守る」だけではなく、「伝統で攻める」メーカーがあることも事実。
かつての伝統工芸品の市場だけではなく、現代のライフスタイルに合ったかたちで新しい伝統工芸の在り方を提案する動きもたくさんみられます。
「伝統だから守らなければいけない」のではなくて、伝統と技術を生かした商品で新たな市場を切り開いていく伝統工芸品こそが求められているのだと感じています。
伝統工芸品が無くなったからといって現代人の生活はなんら変わらないのかもしれません。
無くなって困るものならば、それは必ずや後世に残っていくはずなのです。
無くなりつつある伝統工芸のモノの作り手の姿勢にこそ、地域や国の本質や「らしさ」が残っているのではないでしょうか。
だからこそ、日本の歴史と本質をあらわすような伝統工芸がこれからもずっと残って欲しいと強く思います。
たまたま出張で秋田・大館を訪れ、タイムリーなニュースを読んで、ふと伝統工芸の未来を考えたのでした。