先日、ある工務店さんを訪れ、お話を伺った際に「古美る(ふるびる)」という表現をはじめて耳にしました。
無垢材を営業・販売するうえで、「経年美化」という表現はよく使っていましたが、「古美る」という表現は、よりしっくりと木材の特性を捉えていて、自分のなかでストンと腹落ちしたのでした。
時間が経って、使い込んで、美しくなる。
古美ていく過程を通して、いっそう愛情が深まっていく。
無垢材は使い込むことで、ぐっと表情が増し、美しくなっていきます。
それはまるで財布やブーツといった革製品のよう。硬かった革が柔らかくなるように、表情が深みを増し、しっとりと落ち着いていくように。
例えば、杉材の床は、使い込んで時間が経つと、日に焼け、年輪が浮造りのように浮かび上がり、艶が増し、風合いが深まっていきます。また、蓄積された傷や汚れも、暮らしの足跡のようなもの。その足跡には、住むひとの思い出が詰まっています。
工業製品をはじめ、多くの人工物は新品のときがいちばん新しくてきれいです。使い込んで時間が経ち、古くなればなるほど、劣化していきます。
つまり、減点方式のようなもの。100点からすこしずつ、すこしずつ減点されていくものです。
一方で古美るという価値観は加点方式なのだと思います。
無垢の床が施工された時点で、無垢の家具を購入した時点で、100点ではありません。その時点ではけっして完成していないのです。時間が経つことで、使い込むことで、美しさを増し、味わい深くなっていく。そして、愛情が深まっていく。
ぼくが働くオフィスはちいさな村の旧小学校。
足もとにあるのは、60年以上もの時間が経ったヒノキの床です。それはきっと60年以上もの時間を生きたヒノキを伐ってできた床。傷や汚れは数えきれないくらいあるけれど、艶っぽく、味わい深い表情をしています。
当時、通っていた子どもたちは米ぬかをワックス代わりにして床を磨いたんだそう。そのおかげで、ぼくが働くオフィスの床は60年以上もの時間を経て、しっかりと古美ていて、あたたかい。