家具屋さんで家具を買ったことありますか?
「家具を買ったことがあるひとって意外と少ないんですよ」
そうおっしゃるのはお仕事をご一緒させていただいている家具屋さん。
いや、もはやライフスタイル屋さんとでも言うべきでしょうか。
東京の一等地に店舗を構え、家具や雑貨などの製造・販売だけにとどまらず、店舗やオフィスなど空間の設計にも取り組んでいます。
テーブル、イス、棚やソファなどの家具だけではなく住環境に関するありとあらゆるものが揃う「ニトリ・無印・IKEA」の三大インテリアショップで買い物はしたことはあるけれど、いわゆる家具屋さんで家具を買うという経験をしたことがあるひとは少ないのかもしれません。
クオリティや価格はさておき、ホームセンターやイオン、ドンキホーテでも家具をはじめインテリアを揃えることができてしまうもの。
あなたのお部屋のテイストは何系?
冒頭の言葉を受けて自分自身を振り返ってみると、確かに家具を買ったことがない俺(27歳)。
頭の中をひっくり返してみても、自分で買った家具が思いつきません。
我が家で使っているダイニングテーブルは貰いものだし、椅子2脚はエンツォ・マーリを模倣して素人DIYでつくったもの。スツールは実家から持ってきたもの。ソファは貰いもの。棚✕2も貰いもの。
ちなみに冷蔵庫も洗濯機もファンヒーターも電子レンジも貰いものなのでした。なんだよ貰いものばっかりじゃねえか俺は。でも、タダほど安いモンはないってね。
ナチュラル、和風、モダン、ヴィンテージ、北欧、西海岸、リゾート、ミッドセンチュリー……家や部屋の系統にはさまざまなテイストがあります。
◯◯さんの家はナチュラル系だな、とか△△工務店さんは北欧系の事例が多いな、とかなんとなくのイメージは持っているけれど、何が空間の系統を決定づけているのかは曖昧だったりします。
サーフボードが置いてあればなんとなく西海岸風に見えてしまうけれど(安直)、ミッドセンチュリーってどんな空間だよ。
壁や床などの内装、そして家具などのインテリアがテイストを印象づけるのだろうけど、じゃあそれに合う木材って何?と言われると難しい。
樹種よりもサイズや色、仕上げ方などがテイストを印象づける要素が大きいように感じます。
そして、自分自身「あなたの部屋のテイストは何系ですか?」という問いに応えることができません。みなさんはどうですか?
西粟倉で暮らしはじめて半年目にようやく見つけた奇跡の物件(プレハブを改装した戸建賃貸)に滑り込むように入居した俺。
ガレージは二つあるし(車は一台しかない)、風呂・トイレはきれいだし、部屋があり余るくらいに申し分のない(奇跡の!)物件。
加えて、自分で家具をつくったり床を張り替えてはみたものの、そこにあるのは素人DIY空間と貰いモノの家具の詰め合わせ。
けれど、材木屋の福利厚生と言わんばかりにスギやヒノキに囲まれた空間でございます。俺の家のテイスト、強いて言えば、無垢系かしら?(そんな系統はない)
メリデメ論よりも実際にあった事例話
「スギとヒノキどちらがいいんですか?」
お客さんからこういった内容の相談を頻繁にいただきます。
その問いに対し、材木屋(自分)はスギやヒノキといった樹種の特徴の話してしまいがち。
「スギの方が柔らかくてあたたかいですよ」
「ヒノキは水に強いのでキッチン周りにいいですよ」なんて具合に。
でも樹種ごとのメリット・デメリット・用途の話を並べるよりも「ぼくん家ではこうやって使ってますよ」「以前にはこんなお客さんがいて…」という事例話の方が納得感を持ってもらえる気がしています。
樹種や産地にこだわりを持って使ってくださることはとてもとてもうれしい一方で、単に「無垢だから」「国産材だから」と使ってくれるひとがもっともっと増えないとマーケット自体が広がらないもの。
リアルなコミュニケーションに求められる「勇気づけ」
インターネットをさまよってみればありとあらゆる情報を集めることができるし、最安値なんてのもすぐ分かります。比較対象は無限にあります。けれど、何かを決めるということには勇気がいるでしょう。
インターネットでなんでも買えてしまうこの時代、リアルなコミュニケーションに求められているのって「勇気づけ」なのかなと思っています。
何かを選択する際に必要な要素って「情報を集めるか」「決めるか」の二択しかありません。
100%情報を集めても決められない場合もあるし、20%の情報量でも何かを選択しなければいけないこともあります。
決めるには勇気がいるから「この選択で大丈夫ですよ」と勇気づけすることこそがリアルなコミュニケーションの価値なのかもしれません。
「このお部屋だったら、こんな家具が合うんじゃないですか?」
「こういうテイストの空間にはヒノキは合わないですよ」
家具もテイストも木も、自分で決めかねるから相談するのであって、確固とした正解があるわけでもなく、なによりもお客さんの納得感が大事。
インターネットでなんでも買えるからこそ、ポチる前のラストワンマイルって実は意外と距離があって、その距離はひと対ひとでしか埋められないのかも。
何かを決めること以上に、お節介もまた勇気がいるし、距離感が難しかったりするのだけれど、「友達の友達」に提案するくらいの感覚がちょうどよいのかもしれませんね。