「よぉ、ニイチャン、出張帰りかい?」
「…いえ、今日、東京から帰ってきたんです。地元が津島なんで」
「そうかそうか!津島の人間か!ちなみにニイチャン、何中だ?」
「天中ッス」
「天中かァ!俺は藤浪中だったゾ!」
年末、久しぶりの帰省。
仕事終わりに駆け足で新幹線に飛び乗ったものの、すっかり夕飯を食べることを忘れていた(が、新幹線でビールを飲むことは忘れなかった)。思い出したように実家の最寄り駅のひとつ手前の駅で電車を降りた。その駅の隣には十年以上通っているラーメン屋さんがある。海海ラーメン。
中学生の時には、塾が終わった後の夜食に。高校生の時には、期末テスト後の打ち上げに。大学生の時には、飲み会終わりに駆け込んだ終電を途中下車してはラーメンをすすった。いわば青春の味ってやつ。裏メニューだってひと通り知っているのだ。
ログハウスというよりは掘っ立て小屋という言葉が似合う店内には、いつも会社帰りのサラリーマンや高校生がズズーっとラーメンをすすっている。
こってりラーメン、中太麺で。と店員さんにいつもの注文をした矢先、冒頭のやりとりは始まった。
スキンヘッド、きれいに切り揃えられた髭、といかにも怖そうな風貌のオッチャンをはじめ、その奥様(であろうオネエサン)、取り巻き風のオッチャン二人の計四名。すでにどこかでしこたま酒を飲んできたのだろう。ゲラゲラと笑いながらドカドカと隣のテーブル席に座りワイワイと話しかけてきた。
新幹線で空きっ腹にスーパードライを二缶流し込んだのだから、ぼくだってすっかり酔っ払って上機嫌だった。気づけばオッチャングループのテーブル席に招かれ、皆でラーメンをすすり、ジーマを片手に話に花が咲いた。
オッチャン達の子どもが自分と同世代であること、オッチャン達は各々で会社を経営していること、津島駅前の商店街がすっかり廃れてしまったこと、七宝町に美味しいホルモン屋があること…もっと飲め飲め、もっと食え食え、君は本当にいい奴だな、彼女はおるんか、ウチのムスメはどうだ、津島はなんもないけどええ町だもんで、トーキョーでも頑張れよ。
話はあっちへこっちへ飛ぶものの、どこへ飛んでいっても最後は必ず笑って終わる。修学旅行中にミッキーマウスを池に落としたのは何処の中学なのか謎のままだ。
歳が親と子ほど離れとっても、中学が違っとっても、おんなじ地元だもんで、友達みたいなもんだがね。
最終的にはラーメンをごちそうになった上、タクシーで家まで一緒に帰ることになった。
また海海ラーメンで会いましょうね、と別れ際に固い握手をした。スキンヘッドのオッチャンは、今日はいい日だなぁとちいさくつぶやいた。ぼくもおんなじ気持ちだて。
結局、オッチャン達の名前を聞くことはなかったし、連絡先も交換しなかった。いつものお決まりの替え玉(ちぢれ麺)を注文することも忘れていたのだけれど、そんなことはどうだっていいのだ。また海海ラーメンに行けばいいんだから。海海ラーメンは青春の味ってやつだけじゃなくて、またオッチャン達に会える(かもしれない)場所になった。