間伐材について多くの日本人が勘違いしているたった1つのこと

「この商品って西粟倉村の間伐材を使っているんですよね?」

お客さんにこんな質問を投げかけられることがあります。

間伐材を利用した商品は徐々に増えてきた

この質問の裏には、間伐材を利用することが森林の保全につながることであったり、曲がっていたり節が多かったりと利用価値の小さい、もしくは使われずに捨てられてしまう(と思われがちな)間伐材を有効活用している、といった商品の裏にあるストーリーを知りたいという意図があるのでしょう。

 

「この商品は間伐材から出来ていますよ。皆さんがこの商品をたくさん使うことで森林が保全されますよ。森が豊かになりますよ」と謳った商品は増えてきています。

企業側の立場から言えば、いわゆるコーズマーケティングというもの。その商品を購入することが自然保護や社会貢献に直接的につながりますよ、という販売手法のひとつです。

FSC認証紙を使用したアイスクリーム・MOW

例えば、森永乳業のアイスクリーム「MOW(モウ)」は紙スリーブにFSC認証紙を使用しています。素材の味わいを大切にしている=良質な素材は健全な自然環境で育まれるという考えのもと、2008年からスリーブに使用する紙には古紙100%再生紙を、2010年からはFSC認証紙を採用しているようです。

ただモノとして良いと感じた商品を購入するのではなくて、その商品がつくられるまでの理念や背景を知り、モノの裏にあるストーリーに共感することによって購買意欲が高まること。そして、消費者がそういった商品を手に取りたいと感じること。これらは素晴らしいことだと思います。

お金を出せばなんでも買うことができる時代に、価格や品質といった消費領域以外にも商品価値を求めるのは今や当然の流れなのかもしれません。

間伐材は品質を表す言葉ではない

ただ、気がかりなのは間伐材という言葉が取り違えて認識されているのではないかということ。間伐材=低品質、では決してありません

 

間伐材は材質をあらわす言葉ではないのです。間伐とは山全体や樹木の生育を促すことを目的とした、木々を間引く伐採方法のひとつでしかありません。

 

「間伐の定義とは…」なんて大それたことを言える立場ではないし、論理に見合う知識も経験も持っていないけれど、材木屋(の営業マン)として日々働いていると、どうしても間伐材という言葉が世間から浮足立ったもののように感じてしまうのです。

 

杭にすら加工できないような小径木だって、立派な横架材が挽けるような中目材だって、間伐目的で山から伐り出されたならば、それはまぎれもなく間伐材です。例えば、区画内の樹木をすべて伐採するような皆伐がなされた山から出てくる丸太と見た目も品質もなんら変わりません。

 

人工林を育てていく過程で間伐作業は必要です。そして、間伐の中にも下層間伐、優勢木間伐、列状間伐などさまざまな方法があります。もちろん、山からは品質の悪い木もあれば良い木も出てきます。

間伐材だから品質が悪いとか、間伐材だから小さい・曲がっている・節が多いとか、間伐材だから利用価値がない、というわけではないのです。

間伐は目的ではなく手段、大切なのは木一本の価値を高めること

間伐材を有効活用することを目的とするのではなくて、木一本一本の価値を高くすることが必要だと感じています。えぇ木もわるい木もぜーんぶ。

丸太一本の価値が高くなる商品をたくさん作り、たくさん売ること。立米単価の高い商品づくりを目指すのではなくて、いかに木一本を、丸太一本をお金に変えることができるか。目指すはこれに尽きます。そうでないと山から木は出てこない。

 

そのために材木屋としてできることは三つしかありません。

  • お客さんに本当に必要とされるモノづくりをすること。
  • 大きな筋肉をもった強い製材工場になること。
  • 川上から川下へと太い血管をつくり、たくさんの血を送ること。

そのために、もっと売らねば営業マン、自分。

 

西粟倉村は2008年に「百年の森林構想」を掲げました。約五十年前、子や孫のためにと木を植えた人々の想いを大切にし、立派な百年の森林に育て上げていくために、あと五十年、村ぐるみで挑戦を続けようと決意しました。村の山では日々、間伐作業が行われています。

週末の早朝、小鳥のさえずりや山のざわめきを聴きながら村の林道を走ると(苦しいけれど)気持ちがいいものです。丁寧に間伐された木々のすき間には朝日がスッと差し込んでいます。林床には下草がざわざわと生えています。西粟倉村の人工林は今日も美しいと思ったのでした。