岡山・西粟倉村の材木屋「西粟倉・森の学校」のハダです。
今日はぼくたち材木屋が毎日向き合っている丸太(原木)の値段のお話です。
ハダ
日本中の山から伐り出される丸太(原木)の値段を知ってますか?
- 直径30cm&長さ4Mのスギ丸太は1本3,800円程度(立米単価13,600円から算出)
- 現在のスギ丸太の価格は1980年ピーク時価格35%まで落ち込む
- 多くの日本人が木の価格を知らないからこそチャンスはある
記事の最後に林業・木材系のおすすめの本を5冊紹介しています👇
年間300人以上のお客さんを工場案内する材木屋「西粟倉・森の学校」
年間300-400名ほどのお客さまに工場案内をしています
西粟倉・森の学校は、年間300-400名ほどのお客さまに工場や森をご案内しています。
設計事務所や工務店などの建築関係者。行政やローカルベンチャーに関心のある方。中学生や大学生、林業専門学生。そして、一般のユーザーの方。ご案内するお客さまはさまざまです。
- 林業と山づくりの歴史
- 人工林と天然林の違い
- 山の付加価値を高めるための木材加工と流通
- ママスタッフが支える木材工場のモノづくり
- 商品開発の工夫や裏話
- ローカルベンチャー村化した西粟倉村の現状
お客さまのご要望に応じていろんなお話をさせていただいています(興味のある方はぜひお声がけくださいね!)
ぼくはこの案内の仕事が大好きです。案内や対話を通して新たに気づかせていただくことがたくさんあります。
毎回のごとく張り切り過ぎては予定の時間を大幅にオーバーしてしまうのですが(スイマセン…!)。
95%以上の参加者が正解できない丸太1本の価格クイズ
製材機に投入する直前の丸太(スギ)
足を運んでくださったお客さまには必ず同じ質問をしています。
ぼくたち材木屋が原材料として仕入れている丸太(原木)の値段についてのクイズ。
ハダ
この丸太、1本あたりの価格はいくらだと思いますか?
フローリングなど内装材加工用として仕入れている丸太の大きさはおおよそ直径30cm弱・長さ4mのスギやヒノキです。
西粟倉村周辺エリアの山々で60年以上かけて育った木ですよ。
数字で記してもイメージが湧きにくいので長さ4mの電柱をイメージしてみてください(電柱は直径30cm)。
……10万円!…50万円!!……30万円。
………100万円……?
…8万円。………3万円…?
オークション形式でドンドンと跳ね上がっていくこともあれば、「いやいやそんなに高くないんじゃないの?」と下げ調子になる時もあります。
これが見事に的中する人がいません。大体が上振れします。正解率は肌感覚で5%程度。20人に質問して1人が正解するかしないか。
ハダ
正解は…1本あたり3,000-4,000円程度です
もちろん樹種や時期、原木の品質で価格差はありますが、私たちがよく仕入れる内装材加工用の杉丸太のおよその価格はこれくらいです。
丸太(原木)は立方メートル単価で計算することが多いのですが、およそ1万2,000円/立米程度です。
お客さまに正解をお伝えすると大抵、「え!」(ざわざわ…)「安っっ」というリアクションをいただきます。
でも、だから林業は儲からないんだ!という話がしたいわけではなくて、だからこそ林業は可能性があるんだという話をしています。
林業・木材白書の木材・丸太の価格推移
平成30年度の森林・林業白書より引用
ここで一旦、丸太価格の推移をデータで見てみましょう。
丸太や柱の価格推移は林野庁が発刊する林業・木材白書が分かりやすいです。
PDF版もダウンロードできるので無料で見ることもできますよ。
上のグラフは平成30年度版のデータです。
右端の平成30年のグラフをご覧ください。
- ヒノキ中丸太 18,400円/立米
- スギ中丸太 13,600円/立米
こちらの数字が昭和55年をピークに徐々に下がっているのがよく分かります。
スギで言えば、39,600円/立米(昭和55年)→13,600円/立米(平成30年)と下降しているので、およそ38年でピーク時の35%にまで価格が落ち込んでいるのが分かります。
重くて・安くて・かさばる木材は流通がキモ
ワリバシ1膳から公共建築物の木材供給まで幅広いモノづくりをしています
60年かけて育てた丸太が3,000円。これは安い。
40-50年前の丸太の価格と比べるとその価値は半分近くにまで落ち込んでいます。
しかし、丸太を1本1本に付加価値を付けられるように人の手をかけて加工し最大化するのが我々材木屋の仕事です。
西粟倉・森の学校では、住宅用内装材であるフローリングなどを中心に、ワリバシ1膳から公共建築物の木材供給まで幅広くモノづくりに取り組んでいます。
また、原材料となる原木自体の流通業もしていますし、加工クズであるおが粉だって立派な商品として販売しています。
木をどう加工して(時には加工しないで)、どこに、誰に、どうやって届けるかでその価値は大きく変わります。
重くて、安くて、かさばる木材は製品価格に対する物流コストが高くなりがちだからこそ、流通がキモでもあります。
丸太の値段は安いけど、丸太の輪切りが飛ぶように売れるイベントもある
モノとごはんと音楽フェス「森、道、市場2018」に出店時の様子
5月に愛知県蒲郡市で開催された、モノとごはんと音楽フェス「森、道、市場2018」に出店しました。
そこでは上のような丸太の輪切りを販売しました。
「わ、木の良い香りがしますね」
「丸太が売ってる!かわいい〜」
「こ、これ、どうやって使うんですか?!」
丸太の輪切りはたいへん好評、2日間の出店で売り切り完売。1枚500-1,000円で販売しました。
中には「え、こんなに安くていいんですか?!」と3-4枚をまとめ買いするお客さまもいました。
並べて販売しただけで特に使い道を示しているわけではありません。
鍋敷きや花台に使いたいというお客さまもいれば、脚を付けてスツールにしたいというお客さまもいました。
冒頭で丸太の価格が1本3,000円なのに対し、厚み5cm程度の輪切りは1枚500-1000円です。
輪切りは、事前に工場でぼくがチェンソーでカットして会場まで持っていっただけ。
特段の加工もしていません。素材のままです。
木が嫌いな人はいないからこそ国民全員が潜在顧客
日本は国土の7割弱が森林で木が溢れています
確かに60年かけて育てた丸太が1本3,000円は安い。
でも、その価格を多くの人が知りません。
中には1本100万円はするんじゃないかと考える人だっているわけです。
それに加え、ぼくは今まで「木や自然のことが嫌いな人」に出会ったことがありません。
日本人は皆、木や自然が大好きだし、それを求めています。それはつまり、国民全員が潜在的顧客になりうるということ。
チェンソーで切っただけの丸太の輪切りが1枚1,000円で売れる方法だってあるわけです。
丸太1本の価格が3,000円にしかならないと悲観的になる前に、木を高く売る方法はたくさんあるはずです。
95%以上の日本人が丸太の値段を知らないからこそ林業は可能性のある産業だと信じてやみません。
やり方はいくらだってあるはずだと鼻息を荒くしながら思うのでした。
2m以上の長モノが主流の建材流通は宅急便で運送できるモノづくりに切り替わっていくそのために林業や木材業の慣習に縛られることなく、お客さんに喜んでもらえるモノづくりを続けていきたいですね。
無垢フローリングで生活するために考えたい5つのこと(施主支給〜メンテナンス)ぼくたち西粟倉・森の学校は住宅用内装材を中心とした木材加工メーカーですが、こんなことを考えながらモノづくりに取り組んでいます。
最後に:おすすめの林業・木材系の本5選
この記事を読んでくださった方から「林業について学ぶためのおすすめの書籍はありますか?」と何度か質問をいただきました。
日本中に山はあるのに林業や木材のことはよく知らない、なにから勉強して良いか分からないという方は多いはずです。
最後にハダが読んで良かったおすすめの本を5冊紹介します。
1. 森林・林業白書(林野庁)
森林・林業系の学生さんや木材業界の関係者でも、実は森林・林業白書をしっかりと読み込んでいる人は驚くほど少ないものです。
林野庁発刊の最新のデータが記載されているので、日本の林業・木材業の全体感やトレンド、市場感を把握したいのなら森林・林業白書を読み込んでみることを猛烈におすすめしています。
一行一句読むというよりも、さらっと全体を把握するのが良いです。
2. 日本林業を立て直す―速水林業の挑戦(速水亨)
ハダは三重大学の森林計画系研究室の出身なのですが、三重で林業家と言えば速水亨さん。
速水亨さんが代表を務める速水林業は江戸時代の1790年から三重県・海山町で林業を始めました。
その歴史と経験に基づく林業経営論は分かりやすく学び深いものがたくさんあります。
ハダは大学の講義で速水亨さんの講義を受けたことで林業にぐっと興味がわきました。
3. 森林飽和 国土の変貌を考える(太田猛彦)
今でこそ日本中に杉や桧など人工林が植えられているけど、人工林を植えられる以前の日本の山はどんな姿だったの?その過去を知るのに素晴らしい本です。
多くの人は知らない、昔の日本はハゲ山だらけだった事実をはじめ、土砂の流れを分析して私たちの誤った思いこみを次々と覆します。
和歌山・田辺の林業会社・山長商店の社長さんからおすすめしていただいた良著です。
4. 森ではたらく!27人の27の仕事(古川大輔)
カタめの本が続いたので後半はライトな読み物をチョイス。
こちらの本は、森を挽く人(製材所)、森で採る人(山菜・キノコ採集)、森で灯す人(木質バイオマス)、森で育てる人(森のようちえん)…など森を舞台に生きるように働く人を紹介した本です。
ハダの尊敬する先輩らも何名か紹介されており、森で働くって木を伐るだけじゃないよと気づかせてくれる多様性に富んだ本です。
5. 神去なあなあ日常(三浦しをん)
2014年に公開された林業映画・WOOD JOB!(ウッジョブ)の原作。
染谷将太や伊藤英明、長澤まさみなどの豪華キャストで送る青春林業映画です。
実はこの映画の舞台は三重県。撮影にはハダが在籍していた三重大学の演習林が使われています。
山に生きる人たちの息遣いが分かる小説です。