もしもし、うぃ、おつかれ

「あー、もしもし、おつかれっす。岡山の田舎クソ野郎さんですか?」

「田舎クソ野郎って誰だよ…!もしもし、ハダでェーッス!!」

 

「ぎゃはは、気持ちわりぃ」

「いや、お前がフッたんじゃねえか」

 

「んで、お前いま何やっとんの?」

「もう布団ン中に入っとったわ」

「あ、わりぃわりぃ。布団の中で忙しかったんですね」

「おう、ネットに卑猥な動画がアップされてないかパトロールに励んどったもんで」

 

「…オレさ、ニ週間タバコ吸ってないんだわ」

「パトロールのクダリ拾えよ!でも、すげえじゃん。禁煙?」

 

「昼飯もコンビニでパンとスープ買って食べとんのよ。すごくね?本気ダイエットだわ」

「営業マンなのにすげーな。俺、今日も大阪出張でラーメンとチャーハン食ってまったわ」

「朝一のアポ前に吉牛食って、昼にラーメン大盛りとチャーハン食って、夜は終電まで飲み会、みたいな生活をいつまでもしてちゃいかんと思うわけヨ」

 

「んで、最近は朝早く会社に行って仕事して、夜も早く帰るようにしとるわけ。夜八時台の名鉄佐屋行きに何が何でも乗るわけヨ」

「えらいじゃん。頑張っとんだな。新しい職場は慣れた?」

「それがさ、クソ忙しいしノルマも厳しくてさー……」

 

ってな感じで、たいして広がりのない話題をすこしだけ触ってはまた別の話題に切り替わり、その話題もやっぱりたいして深まることもなく、次の話へ移っていくわけで。

 

「まあさ、結局、帰り道ヒマだったもんで電話したんだわ」

「俺はお前の彼女じゃねえよ」

「ぎゃは、これで一年くらいはお前と会わんでもいいわー」

「いやいや、先週も夜中に酔っ払って電話してきたが」

 

「あ、お盆は帰るつもりでおるよ」「え、そんなん知らんし」

「いや、飲みに誘えよ」「暇だったらな」

「だいたいお前暇じゃん」

「確かにィ!んまぁ、何でもいいや。俺、ちゃんとするわ。じゃ、おつかれ」

「そうだな、俺もちゃんとする。おつかれ。うぃ」

「うぃー」

 

たいした用事もないのに夜中に電話で起こされて、気づけば三十分以上も電話していて、すっかり目も冴えてしまってなかなか眠れなくなってしまったのだけれど、不思議と嫌な気はしないモンで。

そこには「おやすみ」もなければ、「またね」もなく、だいたいが「おつかれ」か「うぃ」で成立してしまうようなしょうもないやり取りしかないのだけれど。いつまで経ってもやっぱり地元の友達っていいなと思ったりするわけで。

 

用事もないのに電話するなんて自分じゃなかなか出来ないものだけれど、ソイツは相手の都合とか配慮なんて一切気にせず、しょうもない電話を毎回のようにかけてくる。でも、忙しい時はメンドクサイから電話に出ない。どうせ、懲りずにまた電話をかけてくるだろうから。

 

用もないのに電話してくんなよ、なんて言わない。こっちだってマンザラでもないのだ。

「ひでぇなー。俺、ウサギと一緒だもんで寂しかったら死んじゃうわけよ、ぎゃはは」

どうせこんな感じで笑い飛ばされるのだろうけど。うぃ。おつかれ。