2020年11月15日〜2021年3月15日まで続いた令和2年度の4ヶ月間の猟期が終了しました。結果的には鹿10頭・猪2頭の計12頭を捕獲することができました。
今回は稼働時間を抑えながら捕獲効率を上げるべく工夫を施した4ヶ月だったので振り返ってみます。
材木屋勤務のくくり罠猟師(7年目)
記事を書いているハダの概要は以下です。
- 1989年生まれ愛知県出身、岡山県北・西粟倉村在住(Iターン)
- 材木屋「西粟倉・森の学校」の営業部長
- 猟師7年目。休日中心にくくり罠による狩猟に取り組む
西粟倉村に移住した2015年に狩猟免許を取得し、猟師7年目です。ふだんは材木屋で勤務しながら平日の朝夕・休日を利用して狩猟に取り組んでいます。鉄砲や箱罠は使わずくくり罠専門です。
4ヶ月で鹿10頭・猪2頭を捕獲
2020年11月15日〜2021年3月15日までの令和2年度の猟期4ヶ月(16週間)での実績は以下でした。
- 1月11日 シカ(メス)
- 1月12日 シカ(メス)
- 1月12日 シカ(メス)
- 1月15日 シカ(メス)
- 1月16日 シカ(メス)
- 1月25日 シカ(メス)
- 2月17日 イノシシ(メス)
- 2月22日 シカ(メス)
- 2月24日 イノシシ(オス)
- 3月1日 シカ(メス)
- 3月13日 シカ(メス)
- 3月15日 シカ(オス)
待望の今期1頭目のイノシシ捕獲!
シカ狙いで掛けていた家の向かいの山で30kg弱の雌イノシシがヒット。玄関を開けたらすぐに異変に気づいた。
シカと違って突進してくるから怖い。アドレナリンじゅわじゅわ出た😇#あわくら狩猟 pic.twitter.com/iEqDtn6z8c— ハダ|西粟倉・森の学校 (@hada_tomohiro) February 16, 2021
今年度は猟期4ヶ月で16頭捕獲を目標にしていましたが、結果は届かず12頭。達成度は75%で着地しました。
11月15日から猟期が始まったにも関わらず、初捕獲は1月11日と2ヶ月弱後。うまくスタートを切れずにもどかしい時期が続きましたが、後半から少しずつ追い上げて捕獲することができました。1週間で鹿5頭を捕獲できた1月中旬はアドレナリンがドバドバ出ました。
小さいもののイノシシを2頭捕獲できたことも良かった結果の1つです。やっぱり猪が捕獲できると興奮しますね。なにより肉が美味いんだ。
週あたり稼働時間8時間、自宅から徒歩圏内のみ設置
捕獲した罠場はGoogle Mapにマッピングして管理しています
今回の猟期で意識したポイントは以下です。
- 1週間あたりの稼働時間は8時間まで
- 自宅から徒歩圏内にのみくくり罠を設置(基本的に半径500m未満)
- 1週間に1頭ペースの捕獲を目指す
材木屋勤務の傍ら狩猟に取り組んでいるので、狩猟に費やせる時間には制限があります。趣味のランニングにも時間を割きたいため、狩猟には週8時間までしか費やさないと設定していました。
- 土日休日 1日あたり2〜3時間程度
- 平日(5日間) 毎朝30分程度の見回り・くくり罠の修正・餌撒き
土日にまとめて山を散策し、くくり罠を設置。平日に見回り・罠の修正というルーティンを回しています。
獣を解体・精肉すると平気で半日が潰れてしまうので解体・精肉時間はカウントしていません。平日に捕獲した場合は解体時間が無いため、西粟倉村内の獣肉解体施設に納品しています。鮮度の高い個体であれば、鹿成獣1頭2,000円で引き取ってくれるため、埋設手間を省けるので非常に助かっています。
少ない時間で捕獲数を増やすためには罠の見回り効率を高める必要があります。毎日片道5分掛けて車を走らせるのも積み重なると大きな時間になってしまうものです。そのため、自宅から徒歩圏内(半径500m未満)にしかくくり罠を設置しないようにしていました。それでも10頭を越えて捕獲できるんだからいかに獣が生息しているかがよく分かります。
自宅から徒歩圏内に罠場を制限することで、早朝にランニングする時や昼休憩に自宅に戻った時、夕方に自宅に帰ってきた時など、ちょっとした時間に罠の見回りや修正・餌撒きができる点がメリットです。ただ、これはハダが生活する西粟倉村の獣生息数が高いという前提ではありますね(笑)
山の奥に出掛けてみれば10匹以上の鹿の群れを見掛けることもあり罠範囲を拡大しようか悩んだこともありますが、ぐっと我慢しました。あくまで自宅近辺で捕獲効率を高めることに徹します。
ある程度調べ尽くした自宅近辺なので「うわ、この獣道は高速道路だわ」と思えるような濃い獣道があまり無く、新しい獣道を見つけた時の興奮があまり無い点はつまらないのかもしれません。
くくり罠+石ぐるり+米ぬか=小林式捕獲法
ハダはくくり罠特化で狩猟に取り組んでいますが、以下の2パターンで罠を設置しています。
- 餌なし 細く濃い獣道に罠を設置し、通行途中の獣に踏ませる
- 餌あり 餌でおびき寄せ、罠を踏ませる(小林式捕獲法)
細く濃い獣道がある場合は餌なしで通行途中の獣に罠を踏ませるように仕掛けます。一方で「このあたりに鹿が居るのは分かるけど、細く濃い獣道が無い」といった場合に上写真の小林式捕獲法を用います。山に餌が豊富にある春夏は効果が薄いですが、餌が少ない冬場に効果的な方法です。
小林式捕獲法を簡単に説明すると、くくり罠+石ぐるり+撒き餌(米ぬか)の組み合わせによるくくり罠の設置方法です。
詳しくはこちらの記事をお読みください。くくり罠+石ぐるり+撒き餌の小林式捕獲法で雌シカを捕獲、解体・精肉して食べてみた
仕組みを説明すると以下です。
- 獣が米ぬかを発見する
- 怪しいと思いながらも食べ進める
- 獣は石などの障害物を踏みたくない傾向がある
- 中央部の罠部分を踏み込み捕獲
鹿には有効な方法ですが、猪は石を鼻でひっくり返してしまうのであまり効き目はありません。とはいうものの、今期捕獲した2頭の猪はいずれも小林式捕獲法によるものです。
精米所で米ぬかは無料で手に入りますし、雑にくくり罠を設置しても鹿が掛かってくれるのが面白いポイントです。くくり罠による狩猟では細く濃い獣道に獣が気づかないように丁寧に罠を隠すのが鉄則ですが、小林式捕獲法なら獣道の選定や罠設置の時間を短縮することができます。
くくり罠はオリモ式OM-30型
くくり罠はオリモ製作販売株式会社のOM-30型を愛用しています。いわゆる弁当箱タイプと呼ばれる踏み板と土台が一体になったくくり罠です。
過去にはさまざまなくくり罠を試してきましたが、2021年現在はオリモ式OM-30型に落ち着き、毎シーズンのように買い直しています。
- 錆びにくいステンレス仕様で1セット6,000円(税抜)
- 土台が無いため深く地面を掘る必要が無いため設置時間が短い
- 踏み板の反応重量をネジで調整できる
- 罠設置時のワイヤー引き込み→固定がしやすい
錆びにくいステンレス仕様、罠設置時間が短い、パーツ紛失しにくい、罠の再設置がしやすい、と非常に良く出来たくくり罠です。
消耗品と割り切って安かろう悪かろうのくくり罠を購入すると1シーズンと経たずに錆びてしまうこともありますが、オリモ式はステンレス仕様にすることでずいぶんと長持ちします。弁当箱部分は傷みにくいですが、猪や大物の鹿を捕獲した後は暴れてワイヤーが傷んでしまうので買い替えを推奨します。
報奨金額は鹿成獣1頭20,000円以上
狩猟に取り組んでいると「狩猟って儲かるんですよね?w」と聞かれることも多いのですが、捕獲報奨金だけでは期待するほど収入はありません。
自治体に捕獲写真・証拠となる耳や尻尾を提出することで報奨金が得られます。ただ、これは自治体や県によって条件が大きく異なりますし、自治体の予算上限に達してしまえば報奨も得られません。
西粟倉村の場合は鹿による獣害が深刻なため鹿捕獲の報奨金の設定金額は高めです。村や県、国の報奨金に加え、獣肉解体施設への納品を加えると1頭20,000円を越えます。今回は子鹿やウリボウ(子猪)も居たので計15〜16万円くらいの報奨金にはなりそうです。
「1週間に8時間稼働で1頭の鹿を捕獲できれば20,000円にはなるか」程度の日当感覚で狩猟により組んでいます。なによりお金のために獣の命を奪い続けるのは精神的にキツイです。ハダは収入のアテには(ほぼ)していません。罠代やらガソリン代やらで支出も多いですし、飲み代の足しくらいにはなるかな?といった印象です。
ちなみにメルカリ等で鹿の角が3,000円越えで売れることもありますし、立派な角付き頭蓋骨なら1万円を越えます。報奨金ありきではなく肉や骨、皮も含めてどう命を使い切るかが重要ですね。
最近では仲間が運営する村内の獣肉解体施設では、鹿の胃袋の中身=グリーントライプを犬猫ペット向け補助食品として販売しています。鹿肉最高部位の背ロースよりも末端価格が高いんですから驚きです。報奨金に頼らないジビエビジネスのモデル構築を考えていきたいですね。
見えない相手との駆け引き 朝起きるのが楽しみ
雨の日も雪の日も毎日の見回りは大変です。でも、「ここだ!」と思える獣道に罠を掛けられた夜は「明日の朝は鹿が獲れるだろうな」と翌朝が楽しみで仕方ありません。そういった日に限って獲れないことの方が多いのですが(笑)
見えない相手との駆け引きは非常に面白くて「この獣道を猪はどうやって歩いてるんだろうか?」「なんで罠に気づいたんだろう?」と考え込んでしまいます。自分なりにPDCAを回して結果が伴った時の達成感=成長の実感にやり甲斐を感じています。
狩猟やランニングに打ち込んでいるのは歳を重ねても自己成長を感じられる個人競技だからなのかもしれません。仕事も楽しいけど、仕事は1人で完結することのない社内外を巻き込んだチームプレイです。狩猟は自分の努力や工夫が直接的に成果となって帰ってきます。だからこそ趣味と実益を兼ねた狩猟を続けられているのでしょう。
捕獲した猪の背骨で煮込んだ猪骨チャーシューラーメン
そして、なにより自分で獲った獣を自分で食べる行為は耐え難い喜びがあります。目の前に広がる自然をおすそ分けしてもらっているんだと実感できます。できる限り全部を美味しく食べたいと心から思えるものです。
山の草木を食べて育った獣を自分が獲り捌き食べる。人間が食べられない内蔵や骨は半家畜・半ペットのニワトリに食べさせる。すると美味しい卵を生んでくれる。自然に根ざした地域内循環を自分の半径5mで実践できるのが面白いなと感じています。
大変なので安易におすすめしませんが味わい深い世界ですよ。