「なんで君はマラソンなんてキツくて退屈そうなことしとるんだ?」
と前職の上司に言われたことがあったけれど、その時はうまく答えることができませんでした。というか、どうせ理解されないだろうと真剣に答えるのも馬鹿らしくてテキトウな返事をしてしまいました。「やってみると意外とクセになるんですよ」って伝えればよかったな。
95%はやっぱりシンドイけど、残りの5%ですべてがひっくり返る
フルマラソンはなら3−4時間のレースですが、ウルトラマラソンやトレイルランニングになると10時間以上も走り続けることになります。その間は何をやっているかと言えば、ひたすら走っているだけ。
長時間走り続けるので消費カロリーが大きいので走りながら食べることは当たり前ですし、ヘッドライトを付けて夜な夜な山を走ることもあります。胃がおかしくなって走りながら吐いたこともあるし、ハンガーノック(ガス欠によるエネルギー切れ)になって山の中でぶっ倒れて動けなくなることもあります。
楽しいかというとレースの最中は大体がしんどくて堪らないし、面白いかというと練習もレースも淡々と走り続けているわけだから、周りから見ればやっぱりキツくて退屈そうなスポーツです。でも、クセになるっていうのは本当の話。
95%はやっぱり辛い、しんどい、痛い。でも、残り5%がとびきり気持ち良いのがランニングの醍醐味です。
- 長い長いレースの最後にゴールテープを切る瞬間
- 練習の甲斐あって自己ベストを更新できた瞬間
- 山々が見せる絶景に涙が止まらなくなる瞬間
- 乳酸漬けの身体で熱い温泉に足を入れた瞬間
- キンキンに冷えたビールをキュッと喉に流し込む瞬間
この瞬間が残りの95%をパッとひっくり返してしまう。
だから、総じて楽しいし、面白い。そして、翌日、筋肉痛になったガチガチの身体をさすりながら、またレースに出たいなと思うわけです。
これって仕事も同じだと思うんですよね。日々の作業が全部楽しくてたまらないと感じているわけではないけど、重ねた苦労が報われる瞬間は本当に気持ちが良い。それをまた味わいたくて仕事を続けています。
誰でも楽しい仕事なんて存在しないけど、いつでも楽しめるかどうかは自分次第だと信じています。
村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」
村上春樹の著書「走ることについて語るときに僕の語ること」には、負けそうになった自分を奮い立たせてくれる言葉がたくさんあって、本棚から引っ張り出しては何度も読み返しています。
Pain is inevitable, Suffering is optional. それが彼のマントラだった。
正確なニュアンスは日本語に訳しにくいのだが、あえてごく簡単に訳せば、「痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル(こちら次第)」ということになる。
全力を尽くして取り組んで、それでうまくいかなかったならあきらめもつく。しかしもし中途半端なことをして失敗したら、あとあと悔いが残るだろう。
【村上春樹 職業としての小説家】ランナー歴30年の小説家の人生におけるランニングとは腹が立ったらそのぶん自分にあたればいい。悔しい思いをしたらそのぶん自分を磨けばいい。
ライバルは自分自身だ!なんて言うと途端にチープになってしまうし、恥ずかしくて口にはしないけれど、つまりはそういうことなのかもしれません。
たまたま同じトレイルランニングレースに出場した、名前も知らないおっちゃん(推定50代後半)とレース後の温泉で話す機会がありました。
「ワタシはね、本当に自分に甘くてね、いつもいつも自分自身に負けてばかりの人生なんだけど、どうにも負け続けるのだけはイヤなんですよね」
「たまには自分に勝ちたいんですよ。それが、走ることなんですよ」
おっちゃんの言葉が今も印象に残っています。