アルフォート1箱で何を伝えるか?材木屋の永遠の課題、サンプル問題

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材木屋の永遠の課題と言ってもいいほど、満足に解決することのできない問題があります。

それはサンプル。

◯ひとつとして同じ木はない
無垢のフローリングは自然素材。
一本として同じものはない木を加工してフローリングをつくっているので、これもまた一枚として同じものはないのです。

色味の違い。木目の流れ。節の有り無し。節の大小。節にも生き節・死に節があったり、入り皮や葉節なんてものもあります。

木材の品質等級で言えば、無節、上小無地、上小節、小節、一等などなど。さらに色味で言えば、白身や赤身や源平というものも。もはやなにがなにやらまったく分かりません。

◯極めて軽微??
日本農林規格(いわゆるJAS規格)の中には、定量的に判断できる基準があります。含水率は15%未満だったり、寸法精度は±1.0mmだったり、割れの長さの合計は材長の10%以下だったり。

逆に、欠け・きず・穴・入り皮およびヤニツボは「極めて軽微」であること、だなんて極めて定性的な判断基準もあります。

「極めて軽微」の判断は人によって異なります。
それは各メーカーとお客さんとの間でも差異があるし、同じ会社のスタッフ同士でも(限りなく同じように努めるものの)差異は発生してしまいます。

だからこそ、木材業は非常にクレームが多い業界でもあります。

「ウチじゃこれくらいの大きさの節だったら上小節だよ」
「いやいや!これはどう見たって小節でしょう!」

なんて等級品質の差異が発生することは日常茶飯事。
それは構造材と内装材といった使用用途でも異なるため、いっそう認識のズレを大きくしています。

◯アルフォート1箱のキャンバス
けれど、お客さんにとって床の貼り替えは決して安い買い物ではありませんし、オークションのようにノークレーム・ノーリターン!というわけにはいきません。

ウチの会社では、業者さんや一般のお客さんに毎月たくさんのサンプルをお送りしています。多い時には月に100件以上サンプルをお送りすることもある。

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ユカハリ・フローリングのサンプル(スギ・節あり・1.5cm厚)

例えば、杉の1.5cm厚のフローリングサンプルの場合、縦横12cm×20cmのサイズにカットしたサンプルをお送りしています。

これは、みんな大好きブルボンのアルフォートの一回り程度大きなサイズ。このアルフォート1箱サイズに「無垢」を伝えきることが非常に難しいんです。

そのサンプル一枚一枚に「無垢」をお客さんにしっかりと伝えられているのか?と問われれば、胸を張って首を縦に振ることができない、というのが正直なところ。

だからこそ、もっともっと木の風合いや魅力を伝えられるような材木屋でありたい、と強く思っています。

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フローリング スギ 左:白身、右:赤身

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羽目板 スギ 左:白身、右:赤身

例えば、上の2枚の写真はどちらも同じサイズのスギのサンプルです。

白身と赤身ではこんなにも色が違う場合があります。スギの場合、皮に近い辺材は白身がち、芯に近い芯材は赤身がちになります。

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ヒノキ 左:埋め木処理、右:小さな節穴

節の違いについてもそう。こちらはヒノキの写真。

左は埋め木処理を施したもの。フローリングに穴を空け、埋め木を打ち込んでいます。右は小さな節穴にパテ埋め処理を施したものです。節の大きさや状態によって埋める方法を変えています。

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ヒノキ 節にもさまざまな表情があります

他にも、こんな表情のある節も。
こういった節もパテ埋めなどの処理をして、凹凸が小さくなるようになめらかに加工します。

製造所スタッフのみんなは、
「赤ちゃんがハイハイしても怪我をしないように」
「ストッキングを履いた女性が伝線しないように」

と、工場内の温度が氷点下になるような寒い日でも、指先の感覚を大事にし、一枚一枚を手作業で仕上げてくれています。

枝がない木はありません。だから、節があるのは当たり前なんです。

だからと言って、「自然のモノなんだから当たり前だよ!」と言うのではなくて、無垢という素材を誤解のないようにお客さんに選んでもらえるように、サンプル一枚にだってこだわりたい。そう考えています。

たしかに工業製品と違って、扱いにくい素材なのかもしれません。

色味や木目、節の有り無しなどの表情だけではなく、割れたり曲がったり反れたりもする。
木と向き合うことをやめてしまえば、それ以上でもそれ以下でもありません。木は使いにくい素材、で終わり。

◯サンプルはただの製品の切れ端か?
木にはアルフォート1箱のサイズにはとうてい収まりきらないさまざまな表情があります。

だからこそ、その豊かさをもっと多くのひとに伝えられるように、たかだかサンプル、されどサンプル。とことんこだわっていきたい。

ぶっきらぼうに丸裸のサンプルをお客さんに渡すのでは、きっと何処かに埋もれてしまうし、いつしかゴミになってしまうかもしれません。

おもわず大切にしまっておきたくなるような高級感のあるケースに入れたっていい。

サンプルのキットを組み合わせたら(たとえばコースターやキーラックといった)簡単なインテリアになるような使い方の提案をしたっていい。

そのサンプルが製品の切れ端と捉えられるか、それとも、お客さんにとってのたいせつな何かになるか、それは材木屋の提案次第で変わるはずです。